聴覚障害者向けの職域設計|情報保障の環境整備・向いている職域と業務設計・会議など音声中心業務の代替設計・助成金と法定雇用率の活用

聴覚障害のある社員の職域設計は、音声情報を文字・画面など視覚情報に置き換える環境整備と、本人の得意分野を生かした業務の切り出しをセットで考えることで、実務上の負担を減らしやすくなります。聞こえの状態やコミュニケーション手段の好みには個人差が大きいため、画一的な配置ではなく本人と対話しながら設計することが前提になります。
職域設計の基本視点ー個人差を前提にする
聴覚障害といっても、生まれつき聞こえない人、中途で聴力を失った人、人工内耳や補聴器を使う人など状態は多様であり、必要な配慮も一人ひとり異なります。「聴覚障害者だから一律にこの仕事」という決めつけを避け、本人の得意なコミュニケーション手段と業務適性を面談で確認することが職域設計の出発点になります。
読話(口の動きを読む)が得意な人もいれば、手話を第一言語とする人、筆談やチャットでのやり取りを好む人もいます。配属前には、これまでの職務経験や希望する業務、必要な情報保障の方法についてヒアリングし、配属先の業務内容とすり合わせておくと、入社後のミスマッチを防ぎやすくなります。
また、聴覚障害は外見からわかりにくい障害でもあるため、周囲の社員が配慮が必要なタイミングに気づけるよう、本人の同意のもとで必要な情報を共有しておくことも重要です。
情報保障の環境整備
音声中心の職場では、朝礼や会議、電話対応など聴覚障害のある社員が情報から取り残されやすい場面が多く発生します。情報保障の基本は、口頭で伝えている内容を文字や画面共有などの視覚情報に置き換えて、同じタイミングで届けることです。
具体的には、会議での音声認識アプリによるリアルタイム字幕表示、社内連絡のチャットツールへの一本化、電話対応をメールやチャットで代替する運用などが挙げられます。手話通訳や要約筆記の外部派遣を利用する企業もあります。
情報保障の手段は一つに絞る必要はなく、本人の希望に応じて複数を組み合わせることも可能です。導入コストが気になる場合は、後述する助成金制度の活用を検討するとよいでしょう。
向いている職域の考え方と業務設計の具体例
聴覚障害のある社員が力を発揮しやすい職域は個人差が大きく一概には言えませんが、電話応対の比重が低く、作業手順や成果物が視覚的に確認しやすい業務は、環境整備と組み合わせることで職域として設計しやすい傾向があります。
具体的には、以下のような業務が候補になりやすいと言われています。
- データ入力・資料作成などの事務業務
- Webサイト運用や画像・動画編集などのクリエイティブ業務
- 検品・品質管理など目視確認を中心とした業務
- 経理・請求書処理などフォーマットが定まった業務
重要なのは職種を先に決め打ちすることではなく、本人のスキルや希望をもとに業務を切り出し、必要な情報保障とセットで職域として組み立てることです。同じ職種でも、業務の切り出し方次第で必要な配慮の量は変わります。
会議・トラブル対応など音声中心業務の代替設計
定例会議や緊急のトラブル対応など、とっさの音声コミュニケーションが発生する場面は、事前の業務設計だけでは対応しきれないことがあります。こうした場面向けに、代替の連絡手段をあらかじめ決めておくことが有効です。
例えば、緊急連絡はチャットの特定チャンネルに集約する、フロアの警報や呼び出しは光や振動で知らせる機器を併用する、といった運用ルールを事前に整備しておくと、緊急時の情報遅延を減らせます。
音声中心の業務を完全になくすことは難しくても、代替手段を用意しておくことで、聴覚障害のある社員が孤立せずに業務に参加できる体制を作りやすくなります。定期的に運用ルールが機能しているか本人に確認することも忘れないようにします。
制度の活用ー助成金と法定雇用率
職域設計にあたっては、公的な制度の活用も選択肢になります。障害者を雇用する事業主に対しては、業務指導員の配置や設備導入などにかかる費用を補助する各種助成金が用意されており、情報保障のための機器導入などに活用できる場合があります。
法定雇用率は現在2.7%で、対象となる事業主の範囲は常用労働者37.5人以上です。法定雇用率は2.5%から2.7%へ引き上げられ、対象事業主の範囲も常用労働者40.0人以上から37.5人以上へ広がった経緯があります。常用労働者100人超の事業主で法定雇用率を達成していない場合は、不足人数に応じて月額5万円(年60万円換算)の障害者雇用納付金が徴収される仕組みになっています。
なお、民間企業全体の実雇用率は2.41%、法定雇用率を達成している企業の割合は46.0%にとどまっており、聴覚障害に限らず職域設計そのものに苦労している企業は少なくありません。助成金の対象要件や金額は変更されることがあるため、申請前に最新情報をハローワークやJEED(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)の窓口で確認することをおすすめします。
よくある質問
聴覚障害のある社員に電話対応を任せてはいけませんか?
一律に禁止する必要はありませんが、聴力の状態や本人の希望によって向き不向きが大きく分かれます。文字起こしアプリなど代替手段を用意した上で、本人と相談しながら業務範囲を決めることが望ましいです。
情報保障にかかる費用は助成金で全額まかなえますか?
助成金には対象経費や上限額などの要件があり、全額が補助されるとは限りません。制度の詳細や最新の要件はJEED(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)やハローワークに確認する必要があります。
法定雇用率を達成していないとすぐに納付金が発生しますか?
常用労働者100人超の事業主が対象で、不足人数に応じて月額5万円(年60万円換算)の納付金が徴収される仕組みです。100人以下の事業主は現時点で納付金の対象外ですが、雇用率達成の努力自体は求められます。
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