外資系投資銀行・コンサルの時間外労働管理の実態と課題:現場で見た長時間労働問題

外資系投資銀行や外資系コンサルティングファームは、高年収と引き換えに長時間労働が当然とされてきた業界です。近年、労働基準法の改正により時間外労働時間の上限規制が厳格化され、これらの業界でも労働時間管理が課題となっています。外資系投資銀行の人事部門で働く私が現場で見た、労働時間管理の実態と課題についてお伝えします。
時間外労働の基本と厳しい上限規制
まず、時間外労働時間には法律で定められた厳しい上限があります。月45時間、年間360時間が原則ですが、特別な事情がある場合でも月80時間(2〜6ヶ月平均)を年間6回まで、年間720時間が上限とされています。
過去には深刻な事例も報告されています。アメリカでは、ある大手外資系投資銀行のアソシエイトが週100時間以上働き、心筋梗塞で亡くなった事例が報じられました。これを受けて、J.P.モルガンは労働時間を週80時間以内に抑えるよう働きかけましたが、それでも月に160時間を超える計算となり、依然として長時間労働の問題は解決していません。
日本でも2022年には東京労働局がアクセンチュアを違法残業で摘発し、2016年には野村證券の投資銀行部門に労基署の調査が入っています。また、報じられてはいないものの、労基署の調査が入ったところは他にもあるようです。
外資系金融機関の労働時間管理の実態
外資系投資銀行や外資系コンサルは、全業界の中でも特に長時間労働が常態化している業界です。各社の労働時間管理の方法は様々であり、一律ではありません。
様々な労働時間管理方法
時間外労働時間の管理方法は企業によって大きく異なります。
- ゲートレコード:オフィスの入退室記録で労働時間を把握
- PC Login/Logout:パソコンのログイン・ログアウト記録を利用
- 労務管理Webアプリ:社員が自身で労働時間を入力
実際、外資系投資銀行でも各社の労務管理方法はバラバラです。コロナ禍以降はリモート勤務が増え、ゲートレコードでの管理ができなくなった企業も多く、PC Loginに移行したり、リモート勤務の時だけPC Loginを使うなど運用方法も変化しています。
ジュニア社員への厳しいチェックと抜け道
外資系金融機関では、労基署からの監視が厳しいこともあり、特にアナリストなどのジュニア社員の労働時間管理には神経を使っています。マネージャーは実際の労働時間を正確に報告するよう指示していることが一般的です。
しかし、現実にはクライアントが存在し、期限内に仕事を終わらせる必要があります。そのため、以下のような「抜け道」が存在することも否定できません:
- PC Loginの記録を後から修正できる仕組み
- リモート勤務時のサービス残業
- 管理監督者への早期昇格によるみなし残業制度の適用
ただし、確実に言えるのは、ジュニア社員の労働時間はここ数年で大きく減少していることです。サービス残業なども減ってきており、業界全体として労働時間管理への意識は高まっています。
長時間労働改善への取り組み
外資系金融機関でも長時間労働の改善に向けた取り組みが進んでいます。主な改善方法としては以下が挙げられます:
AIの活用
ジュニア社員は議事録の作成や企業のリサーチなど、時間のかかる作業を担当することが多いです。ChatGPTなどのAIツールを活用すれば、これらの作業時間を大幅に短縮できます。
ただし、セキュリティの観点からAIがまだ導入されていない企業も少なくありません。クライアント情報の漏洩リスクが懸念されているためです。それでも現場からはAI活用の声が多く、多くの企業で年内導入に向けて動いているようです。
管理監督者の拡充
時間外労働時間の対象外である管理監督者(アソシエイト以上)を増やす戦略も取られています。投資銀行では、新卒入社でも3年目程度でアソシエイトに昇格するケースが多く、本来の管理監督者の定義からはかけ離れていますが、若手のアソシエイトを増やすことで労働時間管理の課題に対応しています。
ただし、業界経験者は限られているため、最近は門戸を広げ、総合商社や監査法人、事業会社などから経験者を採用するケースも増えています。(投資銀行転職希望者にはチャンスかもしれません)。また、管理監督者であっても企業には労働時間管理義務があり、過労死やうつ病などのリスクへの対応にも限界があります。
役職に関わらず、月の残業時間が80時間以上の場合には産業医の面談が義務付けられています。このレポートを作成していますが、IBDなどではジュニア社員よりもアソシエイトやVP、MDの方が多く働いています。
優秀な人材の採用
仕事のできる人材を採用することも重要な戦略です。投資銀行もコンサルも、東大や京大、慶應、海外大などの高学歴者が多く、非常に高い倍率を突破した優秀な人材が集まっています。
しかし、高学歴と仕事の能力は必ずしもイコールではありません。最近ではインターンシップでの実務能力チェックを強化したり、採用時により厳しい基準を設けたりする企業も増えています。
特にアソシエイトの採用は重要視されています。アソシエイトはアナリストよりも即戦力となり、生産性が高いため、同じ作業をより短時間で高いクオリティで仕上げることができ、結果として全体の残業時間削減につながるからです。
まとめ:規制と現実のはざまで
外資系投資銀行や外資系コンサルの労働時間管理は、法律の規制と業務の現実との狭間で日々調整が行われています。クライアントの要求に応えながらも労働基準法を遵守するという難しい課題に、各社は様々な方法で対応しています。
過去の深刻な事例を教訓に、業界全体として労働環境の改善への取り組みは確実に進んでいますが、完全な解決にはまだ時間がかかるでしょう。AI活用や人材戦略の見直しなど、技術と人材の両面からのアプローチが求められています。
長時間労働の解決策としてポイントは、AIの導入です。日々進歩していく生成AIなどをいかに現場に導入することができるかで生産性やクオリティ、そして労働時間は大きく変わっていくはずです。
タイムリーな話として、PwCがアメリカで監査や税務などの部門で1500人ほど人員削減をしたというニュースが報じられました。この人員削減は一部ではAI導入による生産性向上とも言われています。だいぶ前の話ですが、ゴールドマンサックスの本社では自動売買によりマーケットの社員の大幅な人員削減をしています。
労働時間管理を担当する者として、今後の時間外労働時間の推移は気になります。