令和6年障害者雇用状況の集計結果を分析|法定雇用率2.5%の動向と今後の展望
1.令和6年障害者雇用状況から読み解く最新の動向
令和6年(2024年)6月1日時点の「障害者雇用状況の集計結果」が公開されました。(参考:厚生労働省「令和6年障害者雇用状況の集計結果」)今回の集計結果によれば、障害のある方を雇用している事業所数や雇用者数が21年連続で過去最高を更新し、企業が障害者雇用に取り組む姿勢がさらに強まっていることが明らかになっています。
まず、令和6年障害者雇用状況の概要をざっくりと押さえておきましょう。
- 法定雇用率は現行2.5%
企業は一定規模(従業員43.5人以上:実際は43.5の端数を切り上げた44人以上など)になると、常用労働者のうち2.5%以上を障害者として雇用しなければなりません。 - 2026年度には2.7%へ引き上げ予定
法定雇用率は段階的に上昇しており、今後も企業側にとってはさらに多くの障害者の雇用が必要となります。 - 障害者雇用者数は21年連続で過去最高を更新
リーマンショック後の金融恐慌の際にも障害者雇用だけは増加傾向が続き、景気変動の影響を受けにくいという特徴が再確認されています。 - 障害種別ごとの増加率
- 身体障害者:前年比+2.4%
- 知的障害者:前年比+4.0%
- 精神障害者:前年比+15.7%
特に精神障害者の伸び率が顕著で、障害者雇用の中心が身体障害から精神障害へと変化しつつある様子がうかがえます。 - 実雇用率は2.41%で法定雇用率(2.5%)に未達
実際に法定雇用率を達成している企業は46%にとどまっており、まだ半数以上の企業が法定雇用率をクリアできていないのが実情です。
本記事では、これらのデータを詳しく掘り下げながら、令和6年時点での障害者雇用のトレンドと、2026年に2.7%へ引き上げられる法定雇用率に向けて企業がどう対応していけばよいのかについて考察していきます。
2.障害者雇用の現状:21年連続最高を更新する理由
2-1.景気の影響を受けにくい雇用形態
今回の厚生労働省の発表によると、障害者の雇用者数は21年連続で過去最高を更新しました。興味深い点として、リーマンショック後の金融恐慌(2008~2009年頃)でさえも、企業の障害者雇用は伸び続けていたことが挙げられます。
「障害者雇用は景気の影響を受けにくい」という強み
これは企業が法定雇用率を遵守しなければならない法的義務が大きな理由です。企業は雇用率未達成の場合に“納付金”や行政指導などのペナルティを課される可能性があり、たとえ景気が悪化しても障害者を解雇したり雇用を減らしたりしにくい仕組みがあるのです。
また、近年はSDGsやESG投資の観点から、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進が企業価値向上に結び付くとの考えも広まってきました。投資家や消費者も、障害者を含む多様な人材を採用・活用している企業に好意的な評価をする傾向が見られ、“障害者雇用=企業ブランドの向上”という図式が定着しつつあります。
2-2.法定雇用率の段階的引き上げ:2026年には2.7%へ
現行の法定雇用率は2.5%ですが、2026年度には2.7%へと引き上げられることが既に決定しています。これは、障害者の就労機会拡大を目指す国の方針を背景にしたもので、企業規模によっては「毎年何十人もの新規障害者雇用が必要」となるケースも出てきます。
ただでさえ2.5%を達成できていない企業が半数以上(実雇用率2.41%)である状況を鑑みると、今後は企業側がさらに障害者雇用を強化し、受け入れ体制を整えることが急務です。
- 2.5% → 2.7%へ
わずか0.2ポイントの引き上げに見えますが、規模の大きい企業(従業員1,000人以上)になると「0.2%」が雇用人数にして十数人〜数十人もの増加につながることもあります。 - 納付金制度や監督強化
法定雇用率を下回ると、1人不足につき月額50,000円(※現行制度)を納付する必要がある(一定規模以上)。逆に達成・超過している企業には報奨金や調整金が支給されるため、「雇わないコスト」「雇うメリット」が明確になっています。
結果として、多くの企業が法定雇用率達成に向けた取り組みを加速する兆しが顕著になっているのです。
2-3.障害種別別の雇用者数の伸び:精神障害者が突出
令和6年の集計では、障害種別ごとに以下の伸び率が見られました。
- 身体障害者:前年比+2.4%
- 知的障害者:前年比+4.0%
- 精神障害者:前年比+15.7%
注目すべきは、精神障害者が圧倒的に高い伸び率(+15.7%)を示している点です。
これは企業が精神障害者の雇用を増やしていることを示すと同時に、社会全体で精神障害(うつ病、躁うつ病、発達障害など)を抱える人が増加している現実とも連動しています。加えて、2018年の障害者雇用促進法改正により、精神障害者の雇用が義務化された(対象として明確化された)ことも大きい要因でしょう。
身体障害者の伸び率は高止まりしており、既に多くの企業が身体障害者の雇用枠をある程度満たしている。
一方、精神障害者の増加傾向は今後も続くと見込まれ、企業の受け入れ体制や配慮はますます重要になります。
3.実雇用率2.41%の壁:法定雇用率達成企業は46%にとどまる
3-1.なぜ実雇用率は2.5%に届かないのか
令和6年時点の実雇用率は2.41%で、法定雇用率2.5%をわずかに下回っています。この「0.09ポイントの差」は一見わずかに思えますが、達成している企業が約46%しかないという事実からも分かるように、多くの企業は障害者雇用に苦戦しています。
要因は複数考えられますが、主なものは下記のとおりです。
- 「どんな業務を任せられるか分からない」という不安
特に中小企業では、障害者をどの部署・業務に配置すればよいかが分からず、採用が進まないケースがあります。根底にあるのは障がい者の特性についての理解不足です。障がい者がどのような仕事を行うことができるのかイメージがつかず、その為にどのような業務を任せるべきか悩む企業は多いです。 - 精神障害者の雇用ノウハウ不足
現在もっとも伸び率が高い精神障害者に対して、企業がどのような配慮やサポートをすればよいか分からない、定着率の低下を懸念して採用を渋るといった問題もあるようです。 - 職場環境整備へのコスト
たとえば車椅子対応のトイレや段差解消など、身体障害者の受け入れには一定の設備投資が必要な場合もあります。資金的余裕がない企業にはハードルが高いと感じられるでしょう。 - 認知や情報不足
障害者雇用に取り組むメリットや、助成金制度・行政のサポート窓口などの情報が十分に企業に伝わっていない可能性もあります。
3-2.未達成企業が増えるとどうなる?法的リスクと企業イメージ
法定雇用率を達成していない企業は、一定規模以上の事業所であれば障害者雇用納付金(不足1人あたり月額50,000円)を支払う必要があります。これが企業にとっては実質的なペナルティとなることから、今後も多くの企業が何とか雇用率を上げようと努力を続けるはずです。
また、社会的観点からも「障害者を雇用する企業かどうか」が企業イメージやブランド価値に影響を与える時代です。求職者も消費者も、企業のD&I(多様性)への取り組みをチェックする傾向が強まっています。
「障害者を積極的に採用している企業=社会貢献やダイバーシティに前向き」という認識が広がる一方、未達成が続く企業は「取り組みが甘いのでは?」と疑われる可能性が高まります。
4.障害者雇用の今後と企業がすべき対応
4-1.精神障害者の採用・定着支援が鍵
前述のとおり、精神障害者の雇用数は前年比15.7%増と大きく伸びています。厚生労働省が公表したデータからも、精神障害や発達障害を持つ方の労働参加が今後さらに増えていくと予測されます。
したがって企業としては、今後の障害者雇用=「精神障害者をどう受け入れるか」が大きなテーマになると言えるでしょう。しかし、精神障害は目に見えにくい特性があり、個々人によって必要な配慮や症状の出方が異なります。
以下のポイントを押さえておくと、採用後の定着率を向上させやすくなります。
- メンターやマネージャーとの面談
精神障害者が安定して働くためには、メンターやマネージャーによるフォローが重要。具体的には定期的な面談があるのが望ましいです。障害を抱える従業員は業務だけでなくプライベートでも悩みを抱えている人も多い為に、すぐに相談できる場があると障がい者にとって働きやすい環境になります。 - 柔軟な勤務形態(在宅勤務や短時間勤務など)
体調の波が大きい場合には、在宅勤務や週3勤務など柔軟な働き方を認めることで、就業継続がしやすくなります。 - 社内理解の促進
同僚や上司に対して、精神障害に関する基本的な理解を持ってもらうための研修や勉強会を実施。無意識の偏見や誤解を取り除き、協力体制をつくる。 - 業務の切り分けと明確な指示
どの業務を任せるかを明確にし、曖昧な指示や業務範囲の拡大をなるべく避ける。特に発達障害の特性をもつ社員にはタスクを細分化し、進捗管理をこまめに行うことが効果的。
4-2.身体障害者の雇用は「高止まり」?今後も維持・向上が必要
身体障害者の雇用は前年比2.4%増と、全体平均ほどの高い伸び率ではありません。既に多くの企業が積極的に採用してきたことから「一定の飽和状態にある」と言われる一方で、まだ法定雇用率を達成していない企業も多いです。
身体障害者の受け入れには、バリアフリーのオフィス設備や通勤経路の確保など物理的要素が絡むケースが多いですが、企業が助成金や補助制度をうまく活用することで設備投資コストを抑えられる可能性があります。
今後、高齢化社会の進展により、もともと身体障害がなかった社員が何らかの障害を持つようになるケースも増えると見込まれます。したがって、身体障害者を雇用するための環境整備は、既存社員の「障害発生後の再雇用」や「継続雇用」への備えにもなるでしょう。
4-3.知的障害者の雇用は緩やかに増加
知的障害者は前年比+4.0%と堅調に増えています。知的障害がある方は、特定の作業やルーチンワークにおいて非常に高い定着率を示すことも多く、企業にとっては「長く安定して働いてもらえる人材」として貴重な存在です。
ただし、採用面接や職場実習を通じて、本人の特性や得意・不得意を詳細に把握することが大切。企業が配慮やサポートを施すことで、高いパフォーマンスを発揮できるケースも決して少なくありません。
また、グループホームや就労支援センターとの連携がスムーズにいけば、通勤や生活面での支援が受けやすくなり、雇用継続がさらに安定するでしょう。
4-4.法定雇用率2.7%時代への備え
2026年度には法定雇用率が2.7%に引き上げられます。
- 人事戦略と経営計画をリンクさせる
「あと何名、いつまでに採用しなければならないか」を逆算し、組織改編や新プロジェクト立ち上げの計画と統合する。 - 採用チャネルの多様化
ハローワークだけでなく、障害者採用専門エージェントや障害者向け就職イベントなど、さまざまなルートを活用。IT企業や人事部門が独自に運営するオンラインプラットフォームも増えています。 - 職場改善と社内啓発
障害者が働きやすいオフィス環境や勤務制度を整えることで、採用後の定着率向上に繋げる。あわせて、管理職やチームメンバーへの啓発が欠かせません。
まとめ
令和6年「障害者雇用状況の集計結果」によると、障害者雇用者数は21年連続で過去最高を更新し、精神障害者の伸び率(+15.7%)が特に顕著である一方、実雇用率は2.41%で法定雇用率2.5%にはまだ届いていません。また、2026年度には2.7%へと引き上げられる予定であり、多くの企業がさらなる障害者雇用拡大に取り組む必要があります。
- 身体障害者の雇用は既に高止まり傾向にあり、企業によってはバリアフリー化など設備投資の課題がある。
- 知的障害者の雇用は緩やかに増加しており、特性にあった業務を見つけることで定着率を高めやすい。
- 精神障害者は年々増加しており、実際に企業が積極的に採用する流れが加速。今後は「精神障害者をどう安定雇用し、定着させるか」が企業の大きな課題となる。
障害者を雇用するメリットは、法定雇用率達成によるペナルティ回避だけではありません。多様なバックグラウンドを持つ人材が集まることで、企業文化が豊かになり、新しいアイデアやイノベーションが生まれる可能性もあります。さらにESGやSDGsの観点でも、障害者雇用が評価対象となり、投資家や消費者からの支持を得やすくなるのです。
しかし現実として、障害者雇用に不慣れな企業や、精神障害の特性に合わせた職務設計が難しいと感じる企業が多いのも事実。そこで、適切なサポートやコンサルティングを受けながら、人事戦略に障害者雇用を統合していくことが求められています。
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