AIが障害者の仕事を奪うのか?最新トレンドと企業がすべき人的資本経営のポイント
1.現在のAIトレンドと障害者雇用への影響
近年、AI(人工知能)の進化は目覚ましく、社会全体に大きなインパクトを与えています。特に2023年以降、ChatGPTをはじめとした生成系AIや、自動翻訳・音声認識などのソリューションが一気に普及し、多くの業務が自動化・半自動化されつつあります。たとえばOpenAIが開発したChatGPTでは、自然言語処理技術が格段に進化し、人間に近い文章を生成することが可能になりました。さらに日本国内外のさまざまな企業やITベンダーがAIサービスを提供し始めており、新たなビジネスチャンスも生まれています。
こうした背景のもと、Gemineと呼ばれるAIツールや、他のクラウド型ソリューションも注目されています。Gemineは、業務プロセスの自動化や予測分析などを可能にするプラットフォームとして開発が進められ、企業のバックオフィス業務やサプライチェーン管理を大幅に効率化できると期待されています。これまでは専門家による分析やコンサルティングが必要だった分野でも、AIがリアルタイムでデータを解析し、最適なアクションを示唆するようになりました。
さらに、AIは生成系AIだけでなく、リアルな現場でも大きな役割を果たし始めています。たとえば、工場の生産ラインでの不良品検知や、農業分野における収穫量予測、物流業界での在庫管理最適化など、さまざまな場面でAIが導入され、効率化とコスト削減につながっています。また、画像認識技術や音声認識技術を活用することで、視覚・聴覚などに困難を抱える方への支援ツールも実用化が進んでおり、障がい者の就労機会拡大にも期待が寄せられています。
一方で、AIの普及によって「人の仕事が奪われるのではないか」という懸念も広く存在します。特に身体的・知的・精神的な障がいを抱える方々にとって、業務範囲が制限されるケースがあるため、AIによる業務自動化の影響を大きく受けてしまう可能性が指摘されています。企業としては、今後のAI活用による効率化と同時に、障がい者が担うべき業務をどのように再設計・再創造していくかが大きな課題となるでしょう。
2.AIが奪う仕事と障がい者の活躍領域
障がい者が活躍する仕事例
まず、障がい者が活躍できる代表的な仕事を整理してみます。障害の種類や程度によって適性は異なるものの、企業内で幅広い業務に携わることが可能です。たとえば以下のような職種が挙げられます。
- 人事業務
採用サポート(応募書類の管理、候補者への連絡など)、勤怠管理、社内イベントの運営補助など - 経理業務
会計ソフトを用いた仕訳入力、伝票整理、入出金管理、帳簿管理など - 総務業務
資料作成、備品管理、郵便物の仕分け・発送、社内の各種手続きサポートなど - SE(システムエンジニア)・プログラマー
アプリケーション開発、テスト業務、データベース管理など - サポート業務
ヘルプデスクやコールセンターでの問い合わせ対応、情報システム部門での社内サポートなど - 一般事務
データ入力、書類ファイリング、電話・メール対応、書類作成補助など
これらの仕事は、定型的な業務と非定型的な業務が混在しているのが特徴です。たとえば経理業務の仕訳作業は比較的定型的な処理が中心で、規則に基づいて金額や勘定科目を入力していく流れが多いため、ある程度自動化がしやすい分野と言えます。一方、人事業務やサポート業務などは、人とのコミュニケーションが重要な場面が多く、AIだけではカバーしきれない側面があります。
AIが仕事を奪う可能性と具体的事例
では、実際にAIが「奪う」と言われる仕事にはどのようなものがあるのでしょうか。AI導入で自動化が進む可能性の高い領域として、以下のような業務が挙げられます。
- 経理業務:仕訳作業の自動化
多くのクラウド会計ソフトでは、取引データを自動取得してAIが勘定科目を推測・振り分ける機能が一般的になりつつあります。たとえば領収書の画像をアップロードすると、日付や金額、店名などを文字認識し、自動仕訳を提案するものもあります。経理担当者の仕事は、これらの提案を「確認・承認」する部分にシフトし、純粋な入力作業はほぼ不要になる可能性があります。 - 翻訳業務・議事録作成の自動化
自然言語処理技術の進歩により、ChatGPTなどの生成AIは人間並み、あるいはそれ以上の速度と正確さで翻訳を行うケースがあります。会議録なども、AI音声認識機能を用いて同時に書き起こし、要約することが可能になっています。人間の手をほとんど介さずに文書やレポートを生成できるため、文字起こし・単純翻訳といった作業はAIに置き換わりやすい領域です。 - サポート・問い合わせ対応
チャットボットやAIカスタマーサポートシステムが進化することで、ユーザーからの定型的な問い合わせの大半は自動応答が可能になっています。これまでは電話やメール対応に多くの人員を割いていた企業でも、AIチャットボットを導入することで24時間対応・コスト削減を実現しつつあります。人間が対応するのは複雑なトラブルシューティングやクレーム対応が中心となり、全体のボリュームは減る傾向です。 - その他の定型業務全般
データ入力やファイリング、テンプレート文書の作成・加工といった繰り返し行う作業は、RPA(Robotic Process Automation)ツールなどで大幅に自動化できます。AI技術が加わることで、より柔軟な自動化が可能になり、一定のパターンに基づく事務作業は「AI+RPA」のコンビネーションで完結できるようになるでしょう。
こうした流れは、障がい者に限らず健常者の職務にも大きな影響を与えます。しかし、障がいのある方が従事しやすいと考えられてきた「定型的な仕事」こそがAIに最適化・代替される可能性が高く、結果として障がい者が担う業務が縮小してしまうリスクがあるとも言えます。
3.企業が取り組むべき人的資本経営と業務切り出しのポイント
では、AIが障害者の仕事を奪う状況を回避し、なおかつ企業と障がい者の双方にメリットをもたらすためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。ここでは、人的資本経営という観点と、具体的な「業務の切り出し」のアプローチを考えていきます。
人的資本経営の観点:障がい者も企業にとって重要な資本
近年のビジネストレンドでは、「人的資本経営」という考え方が注目されています。これは、従業員一人ひとりを「コスト」ではなく「資本(キャピタル)」と捉え、長期的な育成やスキル開発に投資することで企業の価値を高めるアプローチです。たとえAIが多くの定型業務を自動化しても、最終的には人間が新しい価値を生み出し、イノベーションを起こす存在でなければ企業の成長は望めません。
この点で、障がい者も例外ではないと考えられます。身体的・精神的な制約があっても、専門的なスキルや独自の視点を持つ方は大勢います。たとえば、ITスキルに長けていたり、繊細なコミュニケーション能力を持っている方など、AIには難しい領域で力を発揮できる可能性があるのです。さらに、企業としてもダイバーシティを推進し、多様な人材が協力し合うことで、組織全体の創造力と柔軟性を高めることができます。
「障がい者雇用=定型業務に特化する」という従来の考え方から脱却し、企業価値に貢献できるポジションを用意し、それに見合った研修や育成機会を提供する。これこそが、人的資本経営の視点で見たときに本当に求められる障がい者雇用の形なのです。
AIでは代替できない業務を見出す
AIが活躍する領域は、基本的に「既にあるデータやパターンを使って、素早く処理・判断を行う」ことが中心です。一方で、下記のような業務は人間の思考力や想像力、共感などが必要とされ、AIだけでは十分にカバーできない部分が多いとされています。
- クリエイティブな発想が求められる仕事(デザイン、新商品の企画・開発など)
- 対人コミュニケーションが中心の仕事(チームマネジメント、カウンセリング、顧客折衝など)
- 前例のない問題に対して柔軟に対応が求められる仕事(トラブルシューティング、イノベーション関連など)
障がい者の仕事においても、「この業務は定型処理だから任せよう」ではなく、「どういう業務なら本人の強みを活かしながら、企業の利益や新たな価値創造に繋げられるか」を探ることが鍵になります。たとえば、コールセンターの単純な問い合わせ対応はAIチャットボットに置き換わるかもしれませんが、「クレーム処理で複雑な事情を抱えた顧客との交渉」や「カスタマーエクスペリエンスを高めるための新サービス提案」などは、むしろ人間のきめ細やかな対応が求められるでしょう。
「人間ならではの付加価値」を生み出す領域に障がい者が携わるように業務を再設計することは、障がい者自身のモチベーションやキャリア形成にもプラスに働きます。定型業務がAIに置き換えられてしまうなら、企業の人事担当者は「どのような新しい業務を創り出すか」を積極的に考え、従業員が活かせる強みを見極めることが今後ますます重要になるでしょう。これは障がい者だけでなく、健常者の仕事にも通じるテーマであり、全体的な業務構造の変革が求められる時代に入っていると言えます。
企業がすべき「業務切り出し」の考え方
「業務切り出し」とは、既存の仕事をプロセス単位で細分化し、担当者や部署ごとに再編成することを指します。AIと人間がそれぞれ得意とする分野を組み合わせることで、組織として最大の生産性を引き出すことが可能になります。障がい者雇用の観点からも、以下のようなステップで検討すると効果的です。
- 全体の業務プロセスを洗い出す
- どのタスクがAI導入で効率化できるのか、逆にどのタスクはAIでは難しいのかを明確にする。
- 障がい者の強みと適性を踏まえて割り振りを行う
- その人が得意なコミュニケーション、クリエイティブワーク、分析・研究などにフォーカスし、可能な限り付加価値の高い業務にアサインする。
- 必要に応じて職務再設計や新しいポジションを作る
- AIによって空いた時間やリソースを活かし、新規プロジェクトの立ち上げやサービス改善に障がい者を参画させる選択肢を検討する。
- 継続的にモニタリングとフィードバックを行う
- 業務効率や社員の満足度を定期的にチェックし、柔軟に業務配置やタスク範囲を調整する。AI技術の進歩も速いため、定期的な見直しが欠かせない。
このように、AIと人間の役割分担を上手にマネジメントすることが、企業の競争力を高める上で大切になります。特に人的資本経営を導入している企業にとっては、障がい者も含めた全社員が「どうすれば自分の強みを活かして企業価値に貢献できるか」を考え、スキルアップやキャリア形成を図る仕組みが重要となるでしょう。
まとめ
AI技術の進歩により、定型的な業務や繰り返し行うタスクは、障がいの有無を問わず、どんどん自動化されていくことが予想されます。とりわけ、仕訳作業や翻訳・議事録作成、問い合わせ対応のような標準化された業務は、AIが得意とする領域です。そのため、従来から「障がい者も取り組みやすい仕事」とされてきた部分が、真っ先にAIに置き換えられる可能性があります。
しかし、人的資本経営の観点から言えば、障がい者も企業にとって重要な資本の一部であり、彼ら・彼女らがAIにはない柔軟性やコミュニケーション力、個性的な視点で新たな価値を生み出すことは十分に可能です。企業は定型業務だけでなく、付加価値の高い領域に障がい者を登用することを視野に入れるべきです。たとえAIが業務を奪うリスクがあるにせよ、業務構造を再設計し、「人だからこそ」行える役割を明確にすることで、すべての従業員が活躍できる仕組みを作り上げられます。
AIの影響は障がい者だけでなく、すべての働き手に及びます。そのため、人事部や経営者にとっては「いかに人間が活きる領域を作り出すか」が、今後ますます重要なテーマとなるでしょう。業務の切り出しやAI活用の仕方を再検討し、人的資本経営を推進することで、企業は新しい価値を創造し、競争優位を獲得できる可能性が大いにあります。
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