50代・60代の障害者転職は可能?身体障害者は50代以上が最も多い。経験や資格でアピール
50代や60代での転職を検討している障がい者の方にとって、「この年齢から新しい職場に移るのは難しいのではないか」といった不安は少なからずあるでしょう。一般的に、中高年齢層の転職市場は採用枠が限られがちであり、決して楽な道のりとはいえません。
しかしながら、障害者雇用促進法における法定雇用率が引き上げられる傾向にある現在、企業側はより多くの障がい者を雇用する必要性が高まっています。そのため、50代・60代の障がい者であっても、新しいキャリアチャンスを見出すことは充分可能です。
本記事では、2026年度には2.7%へと引き上げられる法定雇用率の背景や、障害者雇用実態調査が示す年齢層別の就業状況、さらに企業における高年齢の障がい者雇用ニーズなどを詳しく解説します。あわせて、50代・60代の障がい者が転職を成功させるためのポイントも取り上げますので、ぜひ参考にしてみてください。
法定雇用率の現状と高年齢障がい者雇用の可能性
障害者雇用促進法における法定雇用率
障がい者の雇用を取り巻く大きな流れとして、「障害者雇用促進法」が定める法定雇用率があります。企業や公共機関に対して、雇用する常用労働者の総数に対して一定割合以上の障がい者を雇用する義務を課すものです。近年は以下のような推移が見られます。
- 法定雇用率はこれまで2.3%であったものが引き上げられ、
- 2024年度には2.5%、
- 2026年度には2.7%へと段階的に上昇予定。
この法定雇用率の引き上げによって、企業はより多くの障がい者の雇用を確保する必要があります。言い換えれば、企業側には「障がい者採用枠を増やさざるを得ない」事情があるということです。そうした流れを受け、一般枠の求人では年齢制限や即戦力採用のハードルが厳しくなる一方、「障がい者採用枠」は従来より広がっていると言えるでしょう。
中高年層の採用ニーズは本当にあるのか?
一般的に、50代や60代の転職市場は若年層やミドル層と比べて狭いとされています。企業が若手人材を積極的に採用する一方で、中高年齢層のポジションが限られるという現状は確かに存在します。しかしながら、障がい者雇用枠においては状況が異なるケースが多いのです。
企業の側には法定雇用率を達成する義務があり、さらに厚生労働省などからの行政指導も強化されつつあります。そのため、企業は年齢を理由に採用を敬遠するよりも、実務経験や仕事への姿勢を重視し、障がい者を幅広い層から募集する動きが進んでいます。特に、定年が65歳までの企業であれば、「60歳近い方でも採用したい」と考える場合も少なくありません。
こうした背景から、50代・60代の障がい者であっても転職のチャンスが増えてきているといえます。
障害者雇用実態調査が示す年齢層別データ
身体障害者の年齢層:50代・60代の割合が高い
障害者雇用の傾向を正しく把握するためには、実際の雇用データを確認することが大切です。以下は、障害者雇用実態調査による年齢別の割合をリスト化したものです。
- 身体障害者
- 65歳以上:17.9%
- 55~59歳層:16.3%
- 50~54歳層:15.8%
- 60~64歳層:13.0%
⇒ 50歳以上の割合は62.5% - 知的障害者
- 20~24歳層:25.0%(最も高い)
- 34歳以下の層:割合が小さい(常用労働者と比べて)
- 精神障害者
- 50~54歳層:15.7%(最も高い)
- 25~29歳層:15.1%
- 30~34歳層:13.4%
- 発達障害者
- 20~24歳層:23.1%
- 25~29歳層:21.4%
- 30~34歳層:16.7%
これらの数字からは、身体障害者の雇用実態として年齢が高い傾向にあることがわかります。特に身体障害者は50歳以上が62.5%と過半数を占めており、65歳以上でも17.9%が働いているというデータが示されています。また、精神障害者でも50~54歳層が15.7%と最も高い割合を占めることから、中高年齢層の就業が決して珍しくないことが明らかです。さらに、身体障害者の約73%は65歳以上という別データも報告されており、高齢化が進んだ雇用構造が形成されていることを示しています。
年齢が高くても転職できる要因
上記のデータから読み取れるのは、「身体障害者を中心に、高年齢層の障がい者が数多く就業している」という現実です。つまり、企業側も高齢の障がい者を一定数受け入れ、労働力として評価しているということになります。背景には、長年培ってきたビジネススキルやコミュニケーション力、職務経験など、中高年ならではの強みがあると考えられます。
加えて、企業の法定雇用率に対する責任感が高まる中で、「若い障がい者だけを採用しても定着率が低いケースが多い」というリスクヘッジの側面も指摘されています。むしろ、50代・60代は企業や仕事の向き合い方を理解していることが多く、勤続意欲も高いことから、企業としても安心感があるのです。
3.50代・60代の障がい者が転職を成功させるためのポイント
経験と専門性をアピールする
年齢が上の障がい者の場合、乏しい経験だとマイナスになる可能性がありますが、逆に言えば経験が豊富であれば年齢に関係なく転職できるチャンスが高まるということです。特に、管理職やマネージャーとしての実績、あるいは専門的な技術・資格などがあれば、企業も積極的に採用を検討してくれる可能性が高いです。
- 管理部門でのマネジメント経験(経理・財務、人事・労務、総務など)
- プロジェクトリーダーとしての進行管理や人材育成経験
- 長年かけて培った業界知識(IT、製造、流通、建設など)
- 特定の資格保有(社会保険労務士、簿記、宅建、IT系資格など)
こういった実績を強調し、企業にとって即戦力となる存在であることを具体的に伝えるのが有効です。
障がい内容や必要な配慮を明確にする
障害者雇用の場合、企業はどのような業務上の配慮が必要かを事前に把握しておきたいと考えます。採用後になって「実はこれができない」「あれは苦手」といった問題が浮上すると、双方にとってマイナスになる可能性があるからです。そのため、自分の障がい特性や、職場で必要な配慮を言語化しておくことが大切になります。
- 身体障害:作業環境のバリアフリー化や通勤手段の確保
- 精神障害:業務量や勤務時間の調整、定期的な休憩の確保
- 知的障害:仕事内容のマニュアル化や作業フローの分解
- 発達障害:コミュニケーション方法の工夫、業務指示の明確化
企業としても、具体的にどのような環境整備が必要かを理解できれば、ミスマッチを減らし、長期的な雇用継続につながる可能性が高まります。
転職エージェントや支援機関を活用する
特に、50代・60代の障がい者が一人で転職活動を行う場合、情報収集や応募書類の作成、面接対策などに多大な負担がかかります。障がい者雇用に特化した転職エージェントを活用すると、以下のようなメリットが期待できます。
- 自分の経験を最大限に活かせる求人の紹介
- 履歴書や職務経歴書の添削
- 面接時の配慮事項や障がいの伝え方に関するアドバイス
- 企業との条件交渉や入社日の調整サポート
エージェントが間に入ってくれることで、企業側も障がい内容や年齢に対してポジティブな理解を持ちやすくなります。また、法定雇用率の達成に熱心な企業の情報を得やすいという点も見逃せません。
また、リファラル(紹介)採用も50代以上にとっては有効な手段です。友人や知人などに紹介してもらい採用される仕組みです。リファラル採用は企業にとって従業員の推薦がある中での選考・採用になるので、人間性や能力・適正に一定の信用があるので企業にとって安心できます。おまけに、転職エージェントを使った時と比べて、採用コストが大幅に安い点もあります。
私が勤務する外資系投資銀行業界ではこのリファラル制度を使っての転職が多いです。それは障がい者も同様です。狭い業界なので、複数の投資銀行を渡り歩く人などはそれぞれの会社に複数の知人がいるので、そこから転職というケースは多いです。
定年制度や雇用形態を確認する
企業によって定年の年齢設定は異なります。一般的には60歳定年、65歳まで再雇用制度というパターンが多いですが、最近では65歳定年を設けている企業も増えてきました。50代後半や60代での入社を想定する場合、定年までの年数を考慮して、雇用契約をどのように結ぶのかがポイントになります。
- 「60歳定年だが、希望者は65歳まで嘱託契約で再雇用」というシステム
- 「社員の定年自体を65歳に延長している」企業
- シニア人材や障がい者向けの特別ポジションを設置しているケース
こうした制度をしっかり確認し、できるだけ長く働くつもりであることを企業にアピールしておくと、採用側も安心感を得やすくなります。
条件やポジションの相談を柔軟に行う
高年齢の障がい者転職の場合、「これまでと同じ給与水準を必ずしも維持できない」ケースも考慮する必要があります。一方で、豊富な経験が評価される場合には給与面で優遇される可能性も十分にあり、管理職やマネージャーポジションで採用されるケースもあります。企業との間でお互いが納得できる条件を探るために、以下のポイントを事前に整理しておくことが大切です。
- 最低限の希望年収(生活費や家族状況、通院費などを踏まえて)
- 仕事内容の範囲(マネジメント業務かプレイヤー業務か)
- 労働時間や残業に対する考え方
- 通勤の可否やテレワークの希望
条件面の交渉はなかなか難しい部分ですが、企業も高い専門性やリーダーシップを持ったシニア世代を欲しがっている現状があるので、柔軟に相談に乗ってくれる場合が多いでしょう。
まとめ
法定雇用率が2026年度には2.7%へと引き上げられる流れの中、企業はこれまで以上に多くの障がい者を採用していかなければなりません。一般枠の採用であれば50代・60代の転職は厳しいといわれがちですが、障がい者雇用枠では逆に「法定雇用率を達成するうえで、高年齢層の障がい者を含め幅広く採用しよう」という意識が高まっています。実際、障害者雇用実態調査でも、身体障害者の50代・60代以上が大多数を占めているというデータが示されており、豊富な経験や社会人としての姿勢を評価されるケースは少なくありません。
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