障害者雇用でのトラブル事例と適切な採用・雇用管理のポイント
障害者雇用で起こりやすいトラブルとは?
障害者雇用を進める企業が増える中で、適切な雇用管理ができていない場合、職場でのトラブルが発生することがあります。これらは多くの場合、職場環境の配慮不足やコミュニケーションの問題に起因します。特に以下のようなトラブルが代表的です。
- 業務遂行能力に対する誤解:雇用主が期待する業務遂行能力と実際のスキルが一致しない場合の問題。
- 職場内コミュニケーションの齟齬:同僚や上司とのコミュニケーションが難しく、連携が取れない状況。
- 合理的配慮が不足している環境:障害特性に応じた配慮がなされていない場合に発生するストレスや摩擦。
これらのトラブルを防ぐためには、事前の計画と採用後のサポート体制の整備が不可欠です。
トラブル防止の障がい者採用のポイント
障がい者に限らず、健常者も含めて、入社後に社風や同僚、仕事とマッチしない従業員がいます。トラブル防止策としては、そのような人材を採用しないことです。
トラブルの種類によって採用プロセスでいくつか工夫ができますが、コミュニケーションに関しては、カジュアル面談を設定したり、人事や部門面接の回数を増やして候補者と話す機会を増やすなどによって、障がい者の特性を見極めることが期待できます。
また、入社後トラブルになる問題の一つとして、焦って採用してしまうことです。例えば、障害者雇用納付金の期限である3月31日や雇用状況を報告する6月1日までに不足数を満たす為に、採用計画なしで採用してしまったなどの問題があります。障がい者を採用するには最低でも3ヶ月、半年程度の期間が必要ですし、採用活動は採用計画や採用戦略を作成し、年単位で行うべきです。
正直、障害種別で入社後のトラブルが多いのが精神障害者です。上司や同僚と上手くコミュニケーションを取れない、報告・連絡・相談が行われない、業務が進まない、などのトラブルがよくあります。実際、厚労省が発表した「障害者雇用実態調査」では、精神障害者を雇用したくないというのが多い結果がありました。精神疾患と言っても症状や合理的配慮は様々です。選考段階で、障害の症状をしっかりとヒアリングしていくのが良いと思います。
トラブル防止に向けた雇用管理のポイント
1. 契約形態を慎重に設定する
障害者雇用においては、特に初期段階での雇用形態の選択が重要です。解雇には高いハードルが存在するため、以下の対策を取ることでリスクを軽減できます。
- 契約社員としてスタートする:まずは契約社員として雇用し、パフォーマンスを見極めることが推奨されます。正社員からのスタートは、高いスキルや経験がある人や紹介による転職に限られると思います。
- 短期契約の設定:初回の契約期間を半年、試用期間を1~3カ月とし、その後の契約更新の可否を柔軟に判断できるようにする。
- 契約更新の規定を明確化:使用期間中のパフォーマンス評価に基づいて、期間延長や契約終了を判断できるよう雇用契約に明記する。
これにより、万が一トラブルが発生した場合でも、契約更新を停止する選択肢が残り、企業側の負担を軽減できます。
2. 障害特性を理解し合理的配慮を提供する
雇用管理において、合理的配慮の提供は法的にも義務付けられています。特に、以下の対応がトラブルを防止するうえで有効です。
- 業務内容を障害特性に合わせて調整:過剰な負荷を避け、本人が持つスキルを最大限発揮できる環境を整備する。
- 配慮の可視化:配慮内容を周囲に共有し、全員が理解を深められる仕組みを作る。
- フィードバックの定期化:定期的な面談を通じて、業務上の課題や配慮事項を確認し、迅速な対応を行う。部門での上司との面談だけでなく、人事との面談を設けたり、産業医との面談を設けるなどもあると望ましいです。
3. 実例に基づく解決策の検討
ケーススタディ:発達障害者のコミュニケーション課題
ある企業の管理部門で働く発達障害の従業員は、対面でのコミュニケーションが苦手でした。しかし、メールやチャットを使った情報伝達には問題がないことがわかり、連携ツールを活用した業務体制に変更した結果、業務効率が向上しました。
この事例から学べるポイント:
- 障害特性に応じたコミュニケーション手段を模索する。
- 技術を活用して、従業員の得意分野を引き出す仕組みを導入する。
障害者雇用管理における契約更新と解雇のハードル
契約更新の判断基準
契約社員として雇用をスタートした場合、更新の可否を以下の基準に基づいて判断します:
- 業務遂行能力と職場適応度の評価。
- 合理的配慮の提供後の業務改善状況。
- チーム内での協調性やエンゲージメントの変化。
解雇のリスクと対応策
解雇には法的な制約が多いため、以下のプロセスを踏むことが推奨されます:
- 十分な業務指導と改善の機会を提供する。
- 専門家や第三者機関の助言を受ける。
- 記録を適切に管理し、トラブル発生時に備える。
障がい者を含め、従業員の解雇に関しては、外資系投資銀行でも同様に解雇を行うのは簡単ではありません。外資系投資銀行というとパフォーマンスが低い従業員はレイオフされるイメージが強いと思いますが、実際は何度も面談を設けて、追加のボーナスでやっと解雇…という時間のかかるプロセスを行なっています。その為に、退職勧奨の前にはPIP (Performance Improvement Program)という業績改善プログラムを設けています。外資系投資銀行では大規模に人員を削減する、RIF (Reduction In Force)という言葉が一般的だったりします。
トラブルを防ぐ組織的な取り組み
1. 管理者向けの研修プログラム
障害者雇用を管理する立場の社員に対して、特性理解や適切な配慮方法を学ぶ研修を実施することが有効です。障害の症状やそれに対する対策などをしっかりと理解する必要があります。
2. 全社的な意識改革
従業員全体に障害者雇用の目的や意義を理解してもらうことで、職場内での孤立を防ぎます。
3. 外部専門機関の活用
専門家のアドバイスを受け、制度設計や雇用管理の質を向上させることが推奨されます。
まとめ
障害者雇用でのトラブルを防ぎ、安定した採用・雇用管理を実現するためには、採用プロセスや契約形態の見直し、障害特性への理解、合理的配慮の徹底が重要です。
当社では、障害者採用に関する計画立案から具体的な採用戦略の策定、採用方法の提案まで幅広い支援を行っています。障害者雇用をお考えの企業の方は、ぜひご相談ください。