障がい者採用計画の立て方を徹底解説|採用数・部門・スケジュール・予算の完全ガイド
障がい者採用計画とは
障がい者雇用は、単に法定雇用率を満たす義務ではなく、企業の多様性を推進し、社会的責任を果たす重要な取り組みです。また、適切な採用計画を立てることで、業務の効率化や新たな価値創出のきっかけにもなります。採用計画は、いつまでにどの部門で何人採用するかのプランになります。本記事では、障がい者採用計画の立案プロセスを徹底解説します。
採用計画と採用戦略との違い
採用計画とは、いつまでにどの部門で何名を採用するのかという具体的な人員計画を指します。一方で、採用戦略はその計画を実現するための全体的な方針や具体的なアプローチを策定することです。例えば、どのような採用チャネルを活用するか、ターゲット層をどのように設定するか、訴求ポイントをどう伝えるかなどが含まれます。このように、採用戦略は採用計画の土台を支える重要なプロセスです。
採用戦略については上記の記事でまとめているので良かったらご覧ください。
採用計画は中期経営計画に基づいて作成する
採用計画は、企業の持続的な成長を支える重要な基盤です。そのため、採用計画は中期経営計画(MTP: Mid-Term Plan)に基づいて策定されるべきです。中期経営計画とは、企業が3~5年を見据えて設定する戦略目標であり、人材戦略はこの目標達成において欠かせない要素です。
中期経営計画との連携
採用計画を作成する際には、以下の要素を中期経営計画と照らし合わせる必要があります:
- 事業目標の明確化
たとえば、特定の市場でのシェア拡大や新規事業への進出が中期目標に含まれている場合、それを達成するための人材像やスキルセットを明確にします。 - 部門ごとの人材ニーズの把握
各部門が中期計画の中で果たす役割に応じて、必要な人員数や求められるスキルを詳細に分析します。これにより、計画的な採用活動が可能になります。 - 人材の定着率向上への配慮
採用した人材が中長期的に活躍できる環境を整えることも重要です。定着率向上は、中期経営計画の目標達成を支える大きな要因です。
中期経営計画を活かした採用計画のメリット
- 戦略性の向上:中期的なビジョンを基にした採用計画は、短期的な人材不足の解消だけでなく、未来の組織構築にも寄与します。
- 効率的なリソース配分:経営計画に基づくことで、予算や採用スケジュールが適切に設定され、無駄なコストを抑えることが可能です。
- 柔軟な対応力:外部環境の変化に対応しつつも、中期目標に沿った採用活動が行えるようになります。
採用人数をどう計画するか
障がい者の採用計画を立てる際には、まず採用人数の目標を設定する必要があります。この目標は、以下のステップに基づいて決定することが有効です。
1. 法定雇用率を基準にする
現在、日本の民間企業における法定雇用率は2.5%(2024年時点)です。この基準を満たさない場合、障がい者雇用納付金の支払いや行政からの是正勧告を受けるリスクがあります。
- 計算例: 従業員数が300人の場合、法定雇用率を満たすには7.5人の障がい者を雇用する必要があります。
2. 事業規模や部門別の人員配置を考慮する
- 業務量の分析: 部門ごとに障がい者が担当できる業務を具体的に洗い出し、何名が必要か逆算します。
- 長期的な視点: 短期的な採用目標だけでなく、3年後、5年後の事業計画に合わせた人員配置を想定します。
3. リソースを考慮
障がい者の採用には、特別なトレーニングプログラムや設備投資が必要な場合があります。そのため、予算やサポート体制を整えながら無理のない範囲で採用計画を立てましょう。
採用形態とその特徴
基本的に人材を採用すれば会社の社員として働いてもらうのが一般的です。ただ、障がい者採用においては農園型雇用やラーニングプログラムなど、仕事の業務を直接行わずに雇用する方法があります。
1. 一般社員として直接雇用
- 特徴: 障がい者を健常者と同じ職場環境で、一般社員として雇用する形態。障がい者も通常の業務を担当し、組織全体の一員として働く。必要に応じて合理的配慮を行う。
- メリット:
- 企業全体の多様性が向上し、共生社会の実現に貢献。
- スキルや能力に応じた適正な役割分担が可能。
- 課題:
- 配属先の理解促進や環境整備が求められる。
2. 農園型雇用
- 特徴: 農業や植物栽培の分野で障がい者を雇用する形態。特にIT企業など、業務が障がい者に適さない場合に選ばれることが多い。障がい者自身にとっては身体的・精神的負担が少なく、自然の中で働くことができる。一方で、企業にとっては容易に障がい者を確保することができる。
- メリット:
- 障がい者の働きやすさを重視した環境。
- チームで作業することで社会性を育む。
- 課題:
- 一部の職種に限定されるため、職場の選択肢が少ない。
- 業務の専門性や収益性が低い場合がある。
- 障がい者にとって直接雇用と比べて給与が低い。
3. ラーニングプログラム
- 特徴: 採用後に教育プログラムを提供し、ビジネススキルやITスキルを身につけることを目的とする形態。マイクロソフトが実施する「ITラーニングプログラム」では2年間、給与を働いながらビジネススキルを習得させるプログラムを実施している。
- メリット:
- スキル不足を補い、障がい者が専門性を活かせるようになる。
- 離職率を低下させる効果が期待できる。
- 多くの候補者を集めることができ、容易に障がい者を確保できる
- 直接雇用よりも採用コストが安い
- 課題:
- プログラムの開発と運営にコストがかかる。
- 採用後すぐの戦力化が難しい。
採用部門の選定
障がい者が安心して働ける職場環境を提供するためには、適切な部門選定が重要です。
1. 管理部門が第一候補
総務、人事、経理などのバックオフィス業務は、障がい者の就労に適している場合が多いです。これらの業務は、物理的な作業が少なく、コミュニケーションが円滑に進む環境が整いやすいからです。
2. 現場業務の工夫
製造や物流の現場でも、作業工程を分けたり補助具を活用したりすることで、障がい者が十分に能力を発揮できる場を提供することができます。
例: 車椅子利用者には、移動しやすい作業場を設ける。視覚障がい者には、音声ガイド付きの機器を導入する。
3. 柔軟な環境整備
一部の職場では、テレワークや短時間勤務を導入することで、身体的・精神的負担を軽減する取り組みも効果的です。
採用スケジュール
採用人数を決めてた上で、採用スケジュールの調整も大事になっていきます。いつまでに目標の人材を確保していくか決めていく必要があります。
障がい者採用において3月末と6月1日の2つの軸があります。
3月末は障害者雇用納付金の期限であり、この時までに年間を通して法定雇用率を上回る障害者数を採用していく必要が有ります。
次に、6月1日は通称ロクイチ報告と言って、この時点の実雇用率が法定雇用率を上回っているかどうかで障害者雇用が進んでいるかどうかを判断されます。もし、この段階で法定雇用率を下回り、かつ障がい者の不足数が5人以上を超えていた場合には雇入れ計画の作成する必要があります。2年間の猶予が与えられた上で、未達成の場合には最悪、企業名を公表されるなどの措置が取られます。
どちらも大事になっていきますが、短期的に見た時に採用スケジュールを決めていく一つの目安になります。
また、人材の確保には求人の募集から選考、内定通知、入社後の準備で最低でも3ヶ月は時間を要します。半年程度の時間がかかると見積もっておくと余裕を立てやすいです。ただ、大手企業で募集人数が数十人規模になると市場の動向などで変化しやすいので、年単位で採用スケジュールを考えた方がおすすめです。
採用予算の見積もりと重要性
採用活動を計画する上で、採用予算の見積もりは非常に重要です。採用予算が正確であるほど、計画的かつ効果的な採用活動を展開できます。
採用予算の定義とその役割
採用予算とは、採用活動全体において発生する費用を見積もったものです。これには、採用活動を実行するための具体的な経費や、採用人数に応じたコストが含まれます。計画的な予算管理がなければ、採用活動が中途半端になり、必要な人材を確保できないリスクがあります。
特に障がい者採用では、通常の採用活動とは異なる準備が求められる場合がありますが、基本的な費用項目は健常者採用と重なるため、健常者採用の平均コストが参考になります。
採用コストの内訳と採用単価
採用コストには「内部コスト」と「外部コスト」があり、これらの合計が採用活動全体の費用を形成します。
- 内部コスト
- 採用担当者の人件費
- 採用活動に必要なオフィスや機器の使用費
- 既存の社員による採用サポート(面接官など)の工数
- 外部コスト
- 求人広告費
- 転職エージェント利用料
- 採用イベント(説明会、セミナー)の運営費
- 候補者の交通費、宿泊費、飲食費
採用単価(1人当たりの採用コスト)は、これらの費用を採用人数で割ったものです。中途採用では、1人当たりの平均採用コストが約100万円に上るとされ、年々増加傾向にあります。障がい者採用においては、外部コストの一部が低く抑えられる可能性があるものの、健常者採用のデータが参考指標として活用されます。
採用予算の獲得と社内への共有
採用予算を確保するには、経営陣や関連部門のトップからの承認を得る必要があります。このプロセスを通じて、採用計画やその目的を社内全体で共有することができます。特に障がい者採用では、採用予算獲得の過程が組織全体の理解を深める重要な機会となります。
例えば、障がい者雇用のメリットや企業価値向上の可能性を具体的に示すことで、経営層からの賛同を得やすくなります。また、この共有プロセスにより、採用担当者が予算計画を進めやすくなるだけでなく、部門間の協力体制が強化されます。
採用方法の選択肢
障がい者採用を成功させるためには、採用方法を柔軟に選ぶ必要があります。採用計画はいつまでにどの部門で何人を採用するべきかを立てるもので、どのように採用するかは採用戦略の分野になります。ただしどちらも大きく関連するので簡単に採用方法を説明します。以下に主な方法とその特徴を挙げます。
1. 自社採用ページ
- メリット: 自社の採用基準に合った人材を直接募集できる。
- デメリット: メンテナンスの負担と中小企業にとっては候補者を集めるのに時間がかかる場合がある。
2. 転職エージェントの活用
専門のエージェントを通じて、障がい者の中でも即戦力になりうる候補者を紹介してもらう方法です。
- メリット: 候補者のスキルや職歴の事前情報が得られる。
- デメリット: 年収の30%程度の紹介料が発生、エージェント担当者が障がい者の状況を把握していないことがある。
3. リファラル採用(社員紹介制度)
既存の従業員から障がい者を紹介してもらう仕組みです。社員による推薦があるため、適性が事前に把握しやすいのが特徴です。
4. 再雇用
過去に働いたことがある人を再雇用する採用方法です。企業文化や環境、人間関係を知っているためにミスマッチしにくく、即座に適応してくれるメリットがあります。
採用後のフォロー体制
採用した障がい者が長期的に活躍するためには、フォローアップ体制の整備が不可欠です。
1. 業務の明確化
採用段階で業務内容をしっかり明示し、必要なトレーニングを提供することが大切です。業務の曖昧さは離職率の上昇に繋がるため、明確な役割分担が求められます。
2. サポートの仕組み
- メンター制度: 配属先で信頼できる先輩社員がサポートを行う仕組み。
- 合理的配慮の提供: 就業規則や環境を見直し、障がい者が働きやすい職場を整えます。
3. 定期的な面談
就業後、定期的な面談を行い、業務上の悩みや環境の問題をヒアリングします。早期に課題を解消することで定着率を向上させることができます。
成功する障がい者採用のポイント
- 採用計画を具体的に策定
採用人数、部門、形態をしっかりと定め、会社全体の戦略と一致させます。 - 受け入れ体制の整備
採用活動と並行して、職場環境や管理職の意識改革を進めることが重要です。 - 評価基準を適切に設定
採用後は、障がい者の特性に応じた評価基準を設け、正当な評価を行う仕組みを導入します。
まとめ
ダイバーシティに富んだ企業は生産性や業績向上しているというデータがある。障がい者の雇用は企業にとって利益貢献のメリットがある。したがって、健常者の人事戦略を策定するのと同様に、障がい者の採用計画も採用戦略と位置付けて、企業戦略から事業戦略、落とし込んで採用計画を作成するべきである。
当社では、障がい者採用支援サービスに力を入れており、採用計画の作成支援も行なっているのでご興味を持たれた方は是非ご連絡ください。