従業員100人以下の障害者雇用に向けた採用計画から採用戦略、採用方法の実践


1.従業員100人以下が押さえておきたい障害者雇用の基礎知識

従業員100人前後の企業にとって、障害者雇用の義務化は大企業と比べてハードルが高く感じられることが多いかもしれません。しかし、少子高齢化が進む日本社会においては、企業規模の大小を問わず、多様な人材を活かす組織づくりが求められる時代です。障害者雇用促進法や法定雇用率のルールを理解し、適切な採用計画を立てることで、中小企業にも多くのメリットをもたらす可能性があります。ここでは、障害者雇用促進法における法定雇用率などの基本的な情報を整理するとともに、従業員100人前後の企業がどのように障害者雇用へ取り組むべきかを解説します。

障害者雇用促進法と法定雇用率の概要

障害者雇用促進法は、障がい者の雇用機会を確保するために制定された法律で、事業主(企業)に対して一定の雇用率(法定雇用率)で障がい者を雇用する義務を課しています。近年では障がい者の就労支援が社会的課題となっていることや、多様性(ダイバーシティ)を重視する企業が増えている背景も相まって、障害者雇用促進法の存在感はますます高まっています。

  • 現在の法定雇用率:2.5%
    企業全体の従業員数(常用労働者数)のうち、最低でも2.5%以上の障がい者を雇用しなければならないと定められています。これは40人に1人の障害者雇用が義務付けられているのと同義です。
  • 今後の法定雇用率の引き上げ:2026年度には2.7%
    法定雇用率は段階的に上昇しており、2026年度には2.7%まで引き上げられる予定です。これは40人に1人から、約37.5人に1人の割合になる計算です。現状では2.5%をクリアしていても、今後の引き上げによって追加で障がい者を雇用する必要が出てくる可能性が高まります。

従業員100人前後の企業にも義務付けられる障害者雇用

従業員数100人前後の企業であっても、法定雇用率2.5%を達成する義務があります。たとえば社員数がちょうど100名の企業を仮定すると、2.5%では2人以上の障がい者を雇用しなければなりません。しかも2026年度以降は2.7%にアップするため、同じ100名の規模でも少なくとも3名ほどの障害者雇用が必要になる可能性があります。

大企業であれば、グループ全体の人員配置や専門部署を活用して柔軟に障がい者を受け入れる選択肢もありますが、従業員100人前後の企業では、少ない人員の中で雇用義務を果たしながら運営していかなければなりません。新たに障がい者を雇用する場合、以下のような懸念や課題が浮かぶと思います。

  1. 部署の少なさや業務の兼任が多い
    総務・経理・人事などの管理部門を一人が担当しているケースも多く、業務が重複しがち。障がい者を受け入れる際に、担当者がどの程度サポートできるかが不透明。
  2. 設備投資の負担
    バリアフリー化や特別な設備導入が必要ではないかという不安を感じる場合がある。
  3. 人材育成リソースの不足
    障がい者を含む新規社員を迎え入れた際、教育担当を割けるだけの余裕があるかどうかが問題になることもある。

しかし実際には、合理的配慮の観点から見ても、必ずしも大規模な投資が必要ではないケースも多いです。特に身体障害者のうち内部疾患を持つ方などは、段差の解消や車いす対応などのハード面での改修を必要としない場合もあり、意外と大きなコストをかけずに受け入れられる可能性があります。
加えて、障害者雇用を推進することは、法的義務を果たすだけでなく、企業イメージの向上や多様な視点を活かした組織活性化など、プラスの効果も期待できます。従業員100人前後の中小企業が障がい者を雇用する具体的なメリットや採用ステップについて詳しく見ていきましょう。


2.障害者雇用のメリットと採用・雇用ステップ

従業員100人前後の企業にとって、障がい者を新しく受け入れることは、リソース面や負担面で大きな決断となりがちです。しかし、「法定雇用率をクリアするためだけの取り組み」にとどまらず、多様な人材を活用することで得られるメリットは決して小さくありません。ここでは、障害者雇用によるプラス効果と、実際の採用計画の立て方から採用方法の策定、内定までのプロセスを解説します。

2-1.障害者雇用のメリット:組織力向上と社会的評価

  1. 多様な視点が組織に新風をもたらす
    企業規模が小さいほど、既存の社員構成や業務フローが固定化している場合があります。そこに異なるバックグラウンドを持つ障がい者の方が加わることで、業務手順やコミュニケーション手段を見直すきっかけが生まれ、組織として新たな気づきが得られることがあります。発達障害者の方の中には、クリエイティブな発想力に長けた人や、特定の分野に強いこだわりと集中力を発揮する人が少なくありません。思わぬイノベーションや効率化が実現する可能性もあるでしょう。
  2. 企業ブランドイメージの向上
    社会的責任を果たすだけでなく、障害者雇用への積極的な取り組みは、周囲に「ダイバーシティを大切にしている企業」というポジティブな印象を与えます。大企業に限らず、中小企業であっても、採用活動や地域社会との連携において良いイメージを築きやすく、優秀な人材の確保にもつながる可能性があります。
  3. 組織内の助け合い意識の醸成
    従業員100人以下の比較的小規模な組織では、もともと社員間の距離が近い傾向にありますが、そこに障がい者が加わることで相互理解協力体制がより強固になることがあります。結果としてチームワークが向上し、離職率の低下従業員満足度の向上といったメリットをもたらす可能性があります。
  4. 法令順守と安心感
    法定雇用率を満たすことで、行政からの指導や罰則を回避できるだけでなく、取引先やステークホルダーに対して安定したコンプライアンス意識をアピールできます。これは中長期的な企業経営においても重要なポイントとなるでしょう。
  5. 障害者雇用納付金と調整金
    現時点で、障害者雇用の不足数に対して1人あたり月額5万円を負担する必要があります。年間で言えば、60万円の負担となり、中小企業にとっては決して安くない支出です。しかし、法定雇用率を上回る障がい者を雇用すると、1人あたり2.9万円の障害者雇用調整金を企業は受け取ることができます。

2-2.採用計画・採用戦略の策定:いつ、どこで、何人を採用するか

法定雇用率2.5%(今後2.7%)を見据えながら、「いつまでに、どの部署で、何人の障がい者を雇用すべきか」を明確にすることが大切です。従業員100人前後の企業なら、2~3名の雇用が中心となるケースが多いですが、事業拡大の見込みや退職者の補充状況などを考慮すると、長期的視点で採用活動を行う必要があります。

  1. 採用人数とタイミングの設定
  • 現在の社員数と法定雇用率(2.5%→2.7%)を踏まえて、必要な障害者雇用数を割り出す。
  • 急募なのか、半年以内に採用するのか、1年スパンで計画するのかを決める。障がい者採用は募集から内定までに3~6ヶ月以上かかることも多いため、逆算して計画立案することが重要。
  1. ペルソナ設計:どんな障がい者を求めるか
  • 学歴や資格、年齢、居住地、さらには障がい種別や通院の有無、業務経験などのイメージ像(ペルソナ)を作成する。
  • たとえば、発達障害者の方を想定するなら、クリエイティブ分野IT開発などに強みを発揮してもらうのも一つの方法。身体障害(内部疾患など)の方を想定するなら、大規模な設備改修が不要な業務や在宅勤務が可能な職種を検討するなど。
  1. 採用チャネルを決める:どの方法で募集するか
  • 直接応募(自社ホームページや求人チラシなど)
  • 転職サイト・転職エージェント(障がい者専門のエージェントも増えている)
  • 公的機関や紹介(ハローワークの障がい者窓口、就労支援センター、学校連携など)
  • 再雇用(過去に在籍していた障がい者や、契約終了となったアルバイト・派遣などを再度受け入れる)

これらのチャネルを複数組み合わせることで、より幅広い層の障がい者との接点を確保できます。

2-3.採用活動から内定までの流れ:時間をかけた計画的アプローチ

「募集を出せばすぐ集まる」というわけではないのが、障がい者採用の特徴です。特に企業の知名度が高くない場合や専門スキルが必要な職種を募集する場合、応募者との接点を見つけるまでに相応の時間がかかることが多いでしょう。

  1. 採用広報・募集要項の発信
  • 求人情報においては、「障がい者歓迎」「合理的配慮を行います」といった明確な記載をすることで、応募者が安心してエントリーできる環境を整える。
  • 簡単な求人票だけでなく、社内の雰囲気や具体的な業務内容、想定される配慮事項など、できるだけ詳細な情報を載せるとミスマッチが減る。
  1. 書類選考・面接プロセス
  • 一次面接はオンラインで実施するなど、候補者の負担を軽減する工夫を検討。
  • 障がいの種類や程度について、どのような配慮が必要かを事前にヒアリングし、面接時点で大まかな環境整備の見通しを立てる。
  1. 採用決定・内定通知
  • 通常の採用と同様、給与や福利厚生、役職などの条件提示を行う。
  • 必要に応じて試用期間を設定し、実際の業務におけるフォローアップ体制を明確にすることで、お互いに安心感を得られる。
  1. 入社日までの準備・研修プラン作成
  • 障がい者が入社した後、どの部署で業務を行うか、誰がメンター(指導担当)になるかなど、具体的な段取りを決定しておく。
  • ハード面の設備投資や、業務マニュアルの作成、周囲への情報共有など、入社前に整えておくべき事項をリストアップして着実に進める。

採用活動から内定、入社までは最短3ヶ月、長ければ半年以上かかるケースも珍しくありません。法定雇用率の不足が発覚してから慌てて取り組むのではなく、余裕を持ったスケジュールで採用活動を行うことがポイントです。

2-4.障害種別の特徴と「どんな人材がベストか」の考え方

「どんな障がい者を採用したら良いかわからない」という声も多いですが、それは企業の事業内容や担当してもらう業務、さらに既存の社員やオフィス環境などによって異なります。以下に主な障害種別の傾向と特徴を整理してみます。

  1. 身体障害(内部疾患など)
  • ハード面の大幅な改修は必須ではない場合も多い。
  • 例えば心臓疾患や腎疾患などの内部障害を持っている方なら、段差をなくす設備投資などは不要で、職場環境としては空調や休憩制度の整備など、ソフト面の配慮が中心になる。
  • 定期的な通院が必要な場合もあるため、通院時の休暇ルールや業務調整がしやすい職場体制を整えるとスムーズ。
  1. 身体障害(肢体不自由、視覚・聴覚障害など)
  • バリアフリー対策補助器具の導入など、多少の設備投資が必要なケースがある。
  • ただし、補助金や助成金を活用すれば、費用負担を軽減することも可能。通勤方法やオフィスの立地も考慮に入れると良い。
  1. 精神障害(うつ病、双極性障害など)
  • 変化に敏感でストレスが大きい業務には不向きな場合があるが、一定の安定した業務ルーチンやサポート体制を整えれば力を発揮する人も多い。
  • 定期的なメンタルヘルス面談や勤務時間の柔軟化を進めることで長期勤務が可能になることも。
  1. 発達障害(ASD、ADHDなど)
  • クリエイティブ思考特定分野への強い集中力を持つ人が多く、IT・デザイン・研究開発などで力を発揮する可能性がある。
  • 社会性やコミュニケーション面で苦手を抱える場合があるため、明確なタスクの指示業務フローの見える化、混乱を防ぐためのサポートが重要。
  1. 知的障害
  • ルーチンワークやマニュアル化された業務に安定して取り組める人が多い。
  • 初めは細かいステップで業務指導を行い、習熟度合いを見ながら難易度を上げるといった手法が有効。周囲のフォローや長期的視点の育成計画が鍵となる。

結局のところ、「どんな業務を任せたいか」「どの程度の配慮が可能か」を明確化し、それに合った障がい種別や人材像をイメージすることが大切です。闇雲に「どんな障がい者でもOK」と募集をかけるよりも、ペルソナをしっかり設定して、適切な求人要件を提示することで、企業と求職者の両方にとって満足度の高いマッチングが期待できます。


まとめ

従業員100人前後の企業であっても、障害者雇用促進法の法定雇用率2.5%(2026年度には2.7%に引き上げ)の義務があります。具体的には社員数100名の場合、2人以上の障害者雇用が必要で、今後は3人以上になるかもしれません。こうした法定雇用率の達成は、単に法律を遵守するためのコスト要素と考えがちですが、実は多様な人材を組織に取り入れるメリットを享受できる大きなチャンスでもあります。

  • クリエイティブ思考や専門スキルを持つ発達障害の人材は、イノベーションの原動力になる可能性がある。
  • 内部疾患など身体障害を持つ方は、大規模な設備投資が不要なケースが多く、配慮や就業ルールの整備で能力を十分に発揮できる。
  • 雇用の過程で相互理解が深まることで、企業の組織文化や助け合いの精神が育つ。

そして、障がい者を採用するには計画的なアプローチが不可欠です。法定雇用率の算出から逆算し、いつまでに、どれくらいの人数を、どんな方法で採用するのかを戦略的に考えましょう。ペルソナを設定し、採用チャネル(直接応募、転職サイト、エージェント、紹介など)を複数用意することが、応募者との接点を増やす鍵になります。また、募集開始から内定までに最低3ヶ月、通常なら半年程度かかることも多いため、逆算して早めに動くことが大切です。

当社の障がい者採用支援サービスでは、採用計画から採用戦略の作成、採用方法の策定、そして入社後のサポートまでを包括的にサポートしています。従業員100人前後の中小企業こそ、多角的な視点で障害者雇用を捉え、組織の強化やイノベーション創出につなげるチャンスがあるのです。少しでも興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。