人事部が推進する障害者雇用:人的資本経営時代の仕事・役割・求められるスキル


1.障害者雇用の基本:人的資本経営との関連

障害者雇用とは、障がいをお持ちの方に働く機会を提供し、企業としても多様な人材を活かしていく取り組みのことを指します。日本では障害者雇用促進法や法定雇用率によって、一定規模以上の企業に対して障がい者の採用を義務づけていますが、昨今は単なる法律遵守のためだけではなく、人的資本経営の一環として障害者雇用を推進していく動きが活発化してきました。

ここでいう人的資本経営とは、企業に所属する従業員を「コスト」ではなく「資産(キャピタル)」と捉え、投資・育成することで企業価値や持続的な競争力を高める経営手法です。多様な人材を受け入れ、適切に活かしていくことが企業全体の人的資本を高めるうえで大きな役割を果たすと考えられています。

法的な背景と社会的意義

日本の障害者雇用促進法では、企業規模に応じて障がい者を一定割合(法定雇用率)以上雇用することが義務づけられています。法定雇用率は数年ごとに見直されており、今後さらに上昇する方向性が示されています。これは、障がいをお持ちの方の就業機会を増やすだけでなく、少子高齢化社会における労働力不足、さらに企業の社会的責任(CSR)やサステナビリティの観点から、あらゆる人材の多様性を確保・活用していく必要性が高まっているためです。

一方で企業側にとっては、障がい者を採用すること=助成金の活用や社会貢献だけではありません。人的資本経営の視点に立てば、障がいがあるなしに関係なく、一人ひとりの社員が持つスキルや特性を把握し、継続的な育成を行うことで組織全体の成長やイノベーションに大きく寄与できると考えられるのです。実際に、障がいの有無にかかわらず高いパフォーマンスを発揮する事例や、新たな視点から業務改善をもたらす事例も多く見受けられるようになりました。

人事部のポジションと重要性

このような人的資本経営の流れの中で、障害者雇用を推進する主軸となるのが人事部(Human Resources Department)です。人事部は、企業を支える「ヒト」という最も重要な経営資源を管理・運用する部署であり、その役割は単なる採用・労務管理だけにとどまりません。人事戦略を通して、経営戦略を支援・実現するという大きなミッションを担っているのです。

特に障害者雇用においては、人事部が中心となって以下のような機能を果たします。

  • 採用計画の立案:企業全体の長期ビジョンや事業戦略に合わせ、いつ、どの部署に、どのような障害特性の方を受け入れるかを検討。
  • 育成・評価制度の設計:障がい者に配慮した研修メニューやキャリアパス、評価指標を整え、能力を最大限に発揮できる環境を構築。
  • 組織文化づくり:ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進し、障がいの有無や背景にかかわらず安心して働ける職場作りに寄与。
  • 社内外のステークホルダー連携:福祉機関や支援団体、また管理職や現場部署と連携し、障がい者が円滑に活躍できるよう環境整備を行う。

つまり、人事部は組織における中心的ポジションとして、経営層と各部署をつなぎながら、人的資本経営を加速させる存在であると同時に、障害者雇用の推進力にもなるのです。従来は「採用が義務だから雇用する」という受動的なアプローチに留まっていた企業も、近年は人事部が中心となり、障がい者の活躍を経営戦略レベルで位置づける動きが増えています。この潮流こそが、人的資本経営を背景とした障害者雇用の進展と言えます。


2.人事部の機能と仕事内容:企業成長を支える要

人事部は、企業における最重要部署のひとつとして、経営の中核を担っています。ここでは、人事部が具体的にどのような機能と役割を果たし、さらに障害者雇用にどのように関わっているのかを詳しく見ていきましょう。

人事部の機能・役割

  1. 人材の獲得(採用)
    人事部の代表的な仕事のひとつが「採用」です。新卒採用や中途採用だけでなく、アルバイトや派遣社員、そして障害者雇用の採用計画など、多様な雇用形態に対応します。最近ではリファラル採用やソーシャルリクルーティング、採用オウンメディア、SNS運営など、採用チャネルも多様化しており、人事部が企業のブランドイメージや採用戦略を左右するほどの影響力を持つケースが増えています。
  2. 育成・評価(人材開発)
    採用した人材をどのように育て、組織全体のパフォーマンスを最大化させるかも、人事部の重要なミッションです。具体的には、新入社員研修や階層別研修、OJT制度の企画・運用などが挙げられます。障がい者の場合、業務に応じたアシスティブ技術や職場環境整備など、個別のニーズに合わせた育成計画も求められます。
  3. 評価・人事制度の設計・運用
    従業員の能力や成果を正しく評価し、報酬やキャリアパスに反映する制度を作り、運用するのも人事部です。評価制度が不透明だと組織のモチベーションを下げる恐れがありますが、逆に適切な評価が行われれば、従業員エンゲージメントを高めることができます。障がい者の場合、成果指標をカスタマイズしたり、勤務時間や業務内容を柔軟に設定する工夫が必要になる場合もあるでしょう。
  4. 人員配置・組織開発(OD: Organizational Development)
    企業の戦略や事業計画に合わせ、どの部署にどの人材を配置するかを検討し、組織を最適化することも人事部の大きな責任です。部署間のコミュニケーションを促進し、社員の働きがいを高める組織風土づくりなども含まれます。障害者雇用を円滑に進めるには、現場と密に連携しながら、配慮事項を踏まえたうえでの配置計画が必要となります。
  5. 労務管理
    勤怠管理、給与計算、社会保険手続き、健康管理、福利厚生など、労務関連の業務を安定的に運用するのも人事部の重要な役割です。障がい者を雇用する際は、法定雇用率の把握や助成金手続き、障がい特性による通院や休暇の取扱いなど、通常の労務管理にはない追加的な配慮も求められます。

戦略人事(HRBP・CoE・OD&TD・OPs)の視点

近年、人事部は「戦略人事」として企業経営の中核に参画する動きが活発になっています。具体的には下記の4つの機能に分かれるケースが増えており、障害者雇用にも大きく関わってきます。

  1. HRBP(Human Resources Business Partner)
  • 事業部と連携し、ビジネスの目標達成を人事の観点からサポートする役割。障がい者の採用や配置において、事業部と密接にやり取りして最適な人材戦略を立てる。
  1. CoE(Center of Excellence)
  • 採用・評価・報酬など特定の分野における専門知識を発揮するスペシャリスト集団。障害者雇用に関しても、法的知識や助成金、障害特性に関するノウハウを一括管理し、組織全体を支援する。
  1. OD&TD(Organization Development & Talent Development)
  • 組織開発や人材育成を専門的に行う部署・役割。障がいをお持ちの方への研修、職務再設計、個別のキャリア支援プログラムなどを開発・運用する。
  1. OPs(Human Resources Operations)
  • 労務管理や給与計算などの事務処理を主に担う部分。障害者雇用に関する各種手続きや助成金申請、勤怠管理などを滞りなく行い、社内の業務を安定稼働させる。

このように、人事部全体で連携しつつ、障害者雇用を含む企業の人材マネジメントを総合的にサポートするのが「戦略人事」のポイントです。単に雇用率を満たすだけの取り組みではなく、経営戦略と一体化した形で障がい者が活躍できる体制を構築することが求められています。


3.人事部に求められるスキルと今後の展望:障害者雇用の加速に向けて

人事部に求められる主要スキル

  1. コミュニケーション能力
    障がい者採用や雇用を進める際には、社内外の多様なステークホルダー(経営層、現場管理職、障がい者支援機関など)との連携が不可欠です。特に、障がい当事者本人に対しても分かりやすく情報を伝え、相手の意見を傾聴して必要な配慮を具体化するコミュニケーション力が求められます。
  2. 情報収集能力
    法令改正や助成金制度、障がい特性に関する最新の知見など、人事部がキャッチアップすべき情報は多岐にわたります。特に障害者雇用においては、就業支援の制度や技術革新(AIを活用したサポートツールなど)を把握することで、より効果的な採用・雇用施策を実現しやすくなります。
  3. 戦略力
    経営戦略と人事戦略をいかに結びつけるかが人事部の大きなテーマです。障害者雇用を単なるCSRではなく、人的資本経営の視点から企業成長を促すアプローチへと変革するためにも、目指すべきKPIやロードマップを描ける戦略力が重要になります。
  4. マルチタスク能力
    人事部では、採用・労務・育成・評価・組織開発など、同時並行的に多くの仕事が進みます。ダイバーシティの一環として障がい者関連業務も加わるとなれば、日々の業務量はさらに増加するでしょう。優先順位をつけながら、多岐にわたる業務をマルチタスクでこなす力が欠かせません。
  5. 専門知識
    労働法や社会保険、障害者雇用促進法などの法令知識、人事制度や評価制度設計に関するノウハウなどがベースとして必要です。特に障害者雇用では、合理的配慮の具体例や助成金活用法、個別の障がい特性に応じた労務管理上のポイントなど、従来の人事労務以上に専門性が求められる場面があります。
  6. 事務処理能力
    勤怠管理、給与計算、各種手続きの書類作成など、正確かつ迅速に対応しなければならない事務作業は依然として多いです。障害者雇用に関しても障害者手帳の確認手続きや助成金申請、雇用率カウントの報告など事務作業が増えるため、基本的なPCスキルやオフィスソフトの操作に加え、ミスを防ぐオペレーション力が求められます。

今後の障害者雇用加速と人事部の展望

これからの社会では少子高齢化が進むと同時に、人手不足多様性推進の要請がさらに高まる見込みです。企業が持続的に成長していくためには、障がい者も含むさまざまな人材を積極的に採用し、その能力を最大限活かせる職場づくりが急務となるでしょう。そこで、人事部の役割はますます重要になります。

  • 障がい者の雇用拡大に伴う採用チャネルの多様化
    オンラインやSNS、支援機関との連携、採用オウンメディア・SNS運営など、多様な採用手法を駆使して企業と求職者のマッチングを強化。
  • 個々の障がい特性に応じたキャリア開発・人材活用
    テレワークや在宅勤務、ジョブコーチの配置などを含む柔軟な働き方の提案。
  • 人的資本経営の観点からの評価指標設定
    企業全体におけるD&Iの進捗、障がい者の定着率や活躍度合いなどを見える化し、経営トップにレポーティング。
  • 組織開発とIT活用
    課題を洗い出し、デジタルツールやアナリティクスを活用して業務効率化や情報共有を促進。

結論として、障害者雇用を単なる義務・法令遵守で終わらせず、「経営戦略の一部」として組み込むことが、人事部にとって今後の大きなテーマになると考えられます。企業は人材が持つ多様な才能を活用することで競争力を高められ、人事部はその推進役として組織全体のマネジメント改革を担うことになるでしょう。


まとめ

本記事では、障害者雇用・採用での人事部の役割と仕事・スキルについて解説しました。人的資本経営の観点からみると、障がいをお持ちの方の採用や活躍を支援することは、企業の大きな成長エンジンとなる可能性を秘めています。その際に中心的役割を果たすのが人事部であり、その業務は採用や育成、評価、人事制度設計・運用、組織開発、労務管理など多岐にわたります。また、戦略人事として経営戦略に参画するうえで、HRBP・CoE・OD&TD・OPsといった機能を連携させながら、障害者雇用を包括的に推進していく動きが進んでいます。

今後、障害者雇用の加速が見込まれるなか、企業の人事部に求められるスキルはますます高度化します。コミュニケーション能力や情報収集能力、戦略力、マルチタスク能力、専門知識、事務処理能力といった基本的なスキルに加え、障害特性や助成金・法制度に関する知識、適切な合理的配慮を行うためのノウハウなども不可欠となるでしょう。人的資本経営の要として、自社の成長に直結する人材マネジメントを展開し、あらゆる社員が力を発揮できる職場づくりをリードすることが、人事部の使命と言えます。

当社では、障がい者採用支援サービスとして、採用計画の設計、採用戦略の作成、採用方法の策定、障がい者の入社後サポート、人事部やマネージャーへの教育など包括的な支援を行っています。これから障害者雇用を本格的に強化したい企業様、人的資本経営をさらに推進したいとお考えの企業様は、ぜひご連絡ください。