障害者雇用の人的資本経営|人材開発のための継続学習

近年、企業経営において「人的資本経営」という考え方が注目を集めています。これは、企業における人材を「コスト」ではなく「資産」と捉え、その資産価値を高めることで企業の成長と持続的発展を目指す経営手法です。さらに、環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みが求められるなかで、人的資本経営がますます重要視される流れがあります。

その際に着目すべきなのが、障がいをお持ちの方も含めた多様な人材の活用です。法定雇用率や多様性推進の観点だけでなく、企業の人的資本を強化するうえでも、障がい者を含めたあらゆる人材の成長機会を整備していくことが求められています。

本記事では、障害者雇用を取り巻く人的資本経営の基本を整理したうえで、そこに必要となる「人材開発」の重要性と、「継続学習」を促進するための具体的なポイントを詳しく解説します。グローバル化やデジタル化が急速に進む現在、スキルを身につけて自己成長を図ることは、多くの人にとって切実な課題です。その中には、当然ながら障がいをお持ちの方も含まれ、彼らの成長が企業の人的資本をさらに高めるカギとなるのです。


1.障害者雇用にも求められる「人的資本経営」の視点

人的資本経営の基本と障がい者への該当

まずは、人的資本経営という概念の基本的な部分を整理してみます。人的資本経営とは、企業が保有する人材を資産と捉え、投資対象として積極的に育成や支援を行い、その結果として企業価値や生産性を高めていく仕組みです。具体的には、以下のような視点を大切にします。

  1. 人材のスキルアップ・キャリア形成への投資
  2. 多様性(ダイバーシティ)と包摂(インクルージョン)の推進
  3. 従業員の健康管理・メンタルヘルス対策
  4. 公平な評価制度・働きがいのある職場づくり

これまで、障害者雇用は法律や社会貢献の観点から捉えられることが多くありました。しかし、人的資本経営という視点で考えると、障がいをお持ちの方も企業にとって重要な人的資本の一部であるという理解が必要です。身体障害、精神障害、知的障害、発達障害など、障がいの種類は多岐にわたりますが、適切な配慮や支援を行い、その特性を活かせる環境を整えることで、企業に新しい価値をもたらす存在となる可能性は十分にあります。

つまり、障害者雇用は「法定雇用率を満たすため」だけの取り組みではなく、企業の人的資本を強化し、中長期的に成長を目指すための重要な戦略の一つなのです。法定雇用率をただクリアするだけでなく、障がい者自身が成長できる仕組みやキャリア形成の機会を提供し、将来的には組織のコア人材として活躍してもらう――それこそが、人的資本経営の考え方に沿った障害者雇用と言えます。

多様性とエンゲージメント向上との関係

人的資本経営を推進するうえでは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の視点が欠かせません。多様なバックグラウンドや能力を持つ人材がチーム内にいることで、問題解決力や創造性が高まり、組織全体のパフォーマンス向上につながるとされています。障がい者雇用もこの多様性の柱の一つです。

さらに、従業員一人ひとりが自分の仕事に意味を見出し、組織に愛着や誇りを持てるエンゲージメントを高めることは、人的資本経営の重要なポイントとなります。障がいをお持ちの方々にとって、企業側が「あなたの特性を活かして成長してほしい」というメッセージを明確に伝え、実際に学習機会やキャリア形成のサポートを用意していることは、エンゲージメントを高めるうえで非常に効果的です。
結果として、高いエンゲージメントを持つ社員が増えれば、企業パフォーマンスやイノベーションの創出力も強化されます。つまり、障害者雇用の促進と人的資本経営は、組織全体の活力を生む好循環を作り出す可能性があるのです。


2.人的資本経営を実践するための「人材開発」と「継続学習」

人材開発がカギを握る理由

人的資本経営を進めるうえで、最も重要なアクションの一つが「人材開発」です。人材開発とは、社員一人ひとりが必要とするスキルや知識、マインドセットを身につけ、組織の目標達成と自分自身のキャリア形成を両立できるように支援することを意味します。障がいをお持ちの方々も同様に、業務に関する専門的なスキルの習得だけでなく、長期的なキャリアビジョンを描くうえで必要となる学習機会が求められます。

具体的には、以下のような要素が人材開発には含まれます。

  1. 学習や研修プログラムの提供
  2. オンザジョブトレーニング(OJT)の実施
  3. メンター制度やコーチング体制の整備
  4. 継続的なスキルアップ機会の創出(社内公募・異動など)
  5. 公正な評価とフィードバックの仕組みづくり

たとえ障がいがあったとしても、スキルを身につけ、自らの力を組織のパフォーマンス向上に活かせる環境があれば、社会や企業への貢献度は飛躍的に高まります。障害者雇用では「できる仕事を与えるだけで終わり」にしがちな企業もありますが、人的資本経営ではむしろ「どうすればスキルアップの場を提供できるか」が問われていきます

ラーニングカルチャーの必要性

人材開発を促進するうえでは、企業文化として「学習を奨励し、お互いに学び合う風土」を醸成すること、いわゆるラーニングカルチャーが不可欠となります。ラーニングカルチャーとは、社員が主体的に学ぶ意欲を持ち、それを組織全体でサポートする文化のことです。

  • 上司や同僚が学習活動を理解し、応援する体制
  • 障がいを含む多様な背景をもつ社員が、気兼ねなくスキルアップに取り組める雰囲気
  • 失敗を糧に学ぶ姿勢の推奨

これらを整備することで、業務効率だけでなく、新たな知識や技術の習得スピードが上がり、社員同士のコミュニケーションが活発化するなどの相乗効果が期待できます。

継続学習を支える要素

人材開発を行う場合、一時的な研修やスポット的な学習ではなく、「継続学習」として捉える必要があります。継続学習とは、社員一人ひとりが生涯にわたり学び続ける態度を身につけることで、変化の激しいビジネス環境にも対応できるようにする考え方です。特に障害者雇用の現場でも、継続的にスキルアップを図れる仕組みが求められます。以下の要素が重要となるでしょう。

  1. パーソナライズ(個人の特性に合った学習プラン)
  • 障害特性や学習スタイルに合わせて、教材や研修形式を工夫する。
  • たとえば、視覚に障がいがある方には読み上げソフトや点字教材を用意するなどの配慮。
  • 学習進捗や理解度を個別にチェックし、フィードバックを行う仕組みづくり。
  1. 場所を問わない学習環境
  • オンライン学習プラットフォームやeラーニングの活用により、自宅やリモート環境からでも学習が可能。
  • 身体的な制約がある方でも通学・通勤の負担を減らして学べるシステムを整備する。
  1. 能動的かつ継続的な学び
  • 「会社に言われたからやる」のではなく、社員自身が興味やキャリア目標を見据えて主体的に取り組む。
  • 自己学習のモチベーションを維持するために、学びの成果を評価・報酬制度にも反映させる。
  • 上司やメンターが定期的に学習の進捗を確認し、問題点や学び直しを支援する。
  1. 「体験」を重視した学習
  • 座学だけでなく、実際に業務やプロジェクトを通じて学ぶ「経験学習」を積極的に導入。
  • 障がい者も参加しやすいワークショップやグループワークの場を設ける。
  • 新技術の活用体験や、業務プロセス改善プロジェクトへの参画など、リアルな体験から学べる機会を増やす。

企業がこれらの継続学習を体系的にサポートすることは、障がい者を含むすべての従業員の成長余地を最大化し、結果的に人的資本を高めることにつながります。


3.今後求められるスキルと継続学習のポイント

AI・テクノロジー・データ分野に注目が集まる

急速に進むデジタル技術の進化やAIの実用化などにより、企業の業務プロセスは大きく変容しつつあります。そのため、AIやテクノロジー、データ分析といった領域のスキル開発に注目が集まっています。障がいをお持ちの方であっても、これらの先端スキルを身につけることで、より幅広い職種やキャリアパスを得られる可能性が高まります。

とはいえ、たとえAIやプログラミングなどのスキルが苦手でも、基本的なデータリテラシー(データを正しく理解し活用する能力)や、ITツールの活用スキルを習得すれば、多くの業務効率を改善し、生産性向上に寄与することができます。特に、エクセルは障がい者にとって習得していきたいスキルです。多くの障がい者採用でエクセル経験は求められており、どの部門に配属になってもエクセルの使用頻度は高く、エクセルを扱えるだけでも十分チームに貢献することが可能です。

誰にでも必要な汎用スキル

AIやデータ分野はもちろん注目されていますが、ほとんどの仕事に共通する汎用スキルも依然として重要視されています。たとえば以下のような能力は、障がいの有無にかかわらず、ビジネスの現場で求められます。

  1. 傾聴力
  • 相手の話を真摯に受け止め、理解しようとする姿勢。
  1. コミュニケーション力
  • 口頭・文章の双方で、自分の考えや要望を分かりやすく伝える能力。
  1. 時間管理
  • 多様な業務を抱えつつ、締め切りを守り、優先順位を設定するスキル。
  1. 優先順位付け
  • 業務量が多い中で、どれを先に取り組むべきか判断する力。
  1. コーチング
  • 後輩や仲間に対して、相手の成長や課題解決を支援するスキル。
  1. コラボレーション
  • チームメンバーと協力して業務を進め、相乗効果を生み出す力。

これらのスキルは、AIやテクノロジーの進歩が進んだとしても、人間同士が協力して仕事を進める限り必要とされ続ける能力です。障がいをお持ちの方が、組織で長く活躍するためにも欠かせません。企業としても、これらの汎用スキルを磨く研修や学習コンテンツを充実させることで、人的資本の価値向上を図ることができます。


まとめ

「人的資本経営」は、人材をコストではなく「資本」として捉え、その価値を高める取り組みが企業の成長と持続性を左右するという考え方です。ここには障がい者も該当し、企業の大切な人的資本として育成や支援を受けることが求められます。法定雇用率を満たすだけではなく、障がいをお持ちの方がキャリア形成できる環境を整えることこそが、真の意味での「ダイバーシティ経営」につながります。

そして、人的資本を最大化するために重要なのが「人材開発」「継続学習」です。企業はラーニングカルチャーを醸成し、研修プログラムやeラーニング、OJT、メンター制度などを活用して、障がい者を含む全社員が常に学び続けられる仕組みを作る必要があります。AI・テクノロジー・データ分野のスキル開発が注目を集める一方で、コミュニケーションや傾聴力、時間管理などの汎用スキルも引き続き重要です。また、継続学習を支えるうえでは、パーソナライズ、場所を問わない学習、能動的かつ継続的な取り組み、そして「体験」を重視することがカギを握ります。

こうした取り組みを通じて、障がい者が社会・企業において自身の能力を発揮し成長していく姿は、組織全体に良い刺激をもたらし、さらに人的資本を強固なものにしていくでしょう。これからのビジネス環境においては、障害者雇用も含め、すべての人材の潜在能力をいかに引き出し、持続的に成長させるかが企業の競争力を大きく左右します。

当社では、障がい者採用支援サービスとして、採用計画から採用戦略の作成、具体的な採用手法の提案、入社後のサポートまでトータルで行っています。人的資本経営を推進し、障がい者雇用を一歩先のステージに引き上げたいとお考えの企業様は、ぜひご連絡ください。

人事部が推進する障害者雇用:人的資本経営時代の仕事・役割・求められるスキル

1.障害者雇用の基本:人的資本経営との関連 障害者雇用とは、障がいをお持ちの方に働く機会を提供し、企業としても多様な人材を活かしていく取り組みのことを指します。…

人的資本経営を進める上での人事部の役割や仕事を上記でまとめているので、障害者雇用の人的資本経営で人事部がどう対応していくべきかご興味のある方はご覧ください。