精神障害者の採用・雇用が難しい理由とその対策|障害者雇用の現状と未来
障害者雇用は、企業の社会的責任(CSR)としてますます重要視されています。多様な人材を活用することで、企業は革新的なアイデアや新たな視点を取り入れ、職場環境の向上を図ることができます。しかし、特に精神障害者の採用・雇用においては、依然として多くの課題が存在します。本記事では、障害種別ごとの雇用割合や精神障害者の採用が難しい現状、その理由、そして企業が取るべき具体的な対策について詳しく解説します。
障害種別ごとの雇用割合と現状
障害種別の割合
障害者雇用における障害種別の割合は以下の通りです:
- 身体障害者:47.5%
- 知的障害者:24.8%
- 精神障害者:19.4%
- 発達障害者:8.2%
この統計から明らかなように、精神障害者の採用数は他の障害種別に比べて少ない傾向があります。これは、精神障害者の雇用が義務付けられたのが2018年からであり、企業側にはまだ十分なノウハウが蓄積されていないことが一因と考えられます。
ASDやADHDなどの発達障害者の採用・雇用の難しさや各症状の特徴、合理的配慮などについては上記の記事をご覧ください。
精神障害者の採用が難しい理由
ノウハウの不足
精神障害者の雇用が義務付けられたのが比較的新しいため、企業側には具体的な採用・雇用のノウハウが不足しています。これにより、採用プロセスや職場環境の整備において課題が生じやすくなっています。従来からの身体障害者や知的障害者の雇用に比べ、精神障害者の特性を理解し、適切な支援体制を整えるための知識や経験が不足しているケースが多く見られます。
ネガティブなイメージ
企業から見た精神障害者に対するイメージは依然としてネガティブな部分が多く存在します。令和5年の障害者雇用実態調査によると、積極的に雇用したいと考える障害種別として身体障害者が最も多かったのに対し、精神障害者は最も低い結果となっています。これは、実際に雇用してみた際に、企業が予想以上に大変だった経験から、精神障害者の採用意欲が低下していることが背景にあります。精神障害者の症状や特性を理解し、適切に対応するためのサポート体制が整っていない企業が多いため、採用が難航しているのです。
多様な症状と合理的配慮の難しさ
精神障害者は、うつ病、統合失調症、パニック障害、閉所恐怖症、適応障害など、様々な症状を抱えており、それぞれの症状が全く異なるため、個別に適切な合理的配慮を行うことが求められます。この多様性により、企業にとって採用・雇用が負担となるケースが多いのです。合理的配慮とは、障害者がその能力を最大限に発揮できるようにするための具体的な支援や環境調整を指します。しかし、精神障害者の症状やニーズは非常に多岐にわたるため、一律の対応では不十分なことが多く、企業は個別の対応を迫られます。
企業が直面する具体的な苦労
選考プロセスでの難しさ
精神障害者の特性を選考で見極めるのは難しいです。通常の面接が2~3回程度では、従業員の本音や適性を十分に把握することが困難です。このため、採用後に職場での適応に苦労するケースが増えており、結果として離職率の増加につながっています。実際、精神障害者の半数が1年後に離職しているのが実態です。特に、精神障害者の症状が不安定な場合や、ストレス耐性が低い場合など、面接だけでは見えにくい問題が潜在していることが多いのです。
職場環境の整備
精神障害者が働きやすい職場環境を整えるためには、職場全体の理解とサポート体制の構築が不可欠です。例えば、静かな作業スペースの確保や、柔軟な勤務時間の導入、メンタルヘルスサポートの提供などが必要です。しかし、これらの環境整備には追加のコストや時間がかかるため、特に中小企業にとっては大きな負担となることがあります。
継続的なサポートの必要性
精神障害者の従業員が職場に定着するためには、継続的なサポートが欠かせません。これは、定期的なカウンセリングの提供や、業務の調整、同僚とのコミュニケーションの促進など、多岐にわたります。しかし、これらのサポートを持続的に提供するためには、専門的な知識とリソースが必要であり、多くの企業ではこれが不足している現状です。
精神障害者の雇用に対する行政支援
行政のサポートプログラム
日本政府や地方自治体は、精神障害者の雇用を支援するために様々なプログラムを提供しています。例えば、障害者雇用支援センターでは、企業向けの相談窓口や職場環境改善のアドバイスを行っています。また、雇用促進助成金を活用することで、合理的配慮のための設備投資や従業員のトレーニング費用を補助することが可能です。
専門的なカウンセリングとトレーニング
行政は、精神障害者を雇用する企業に対して専門的なカウンセリングやトレーニングを提供しています。これにより、企業の人事担当者や上司が、精神障害者の特性やニーズを理解し、適切なサポートを行うための知識を習得することができます。定期的な研修やセミナーを通じて、最新の支援方法や法規制について学ぶ機会が提供されているため、企業はこれらを積極的に活用することが推奨されます。
精神障害者の採用を成功させるための具体的な対策
カジュアル面談の増加
カジュアル面談を増やすことで、精神障害者が本音で話せる機会を増やすことができます。これにより、従業員の実際のニーズや働き方の希望をより深く理解することができ、採用後の適応をスムーズに進めることが可能となります。カジュアルな環境での対話は、従業員が緊張せずに自己開示しやすく、企業と従業員の相互理解を深める助けとなります。
面接回数の増加
人事による面接回数を増やすことも有効な手段です。複数回の面接を通じて、従業員の能力や適性をより正確に評価することができます。また、異なる担当者が参加する面接を行うことで、多角的な視点からの評価が可能となり、採用の精度が向上します。これにより、精神障害者の特性に適したポジションへの配置が容易になり、職場への適応が促進されます。
トライアル雇用の導入
トライアル雇用を導入することで、企業と従業員双方にとっての適性を確認することができます。これは、正式な雇用契約を結ぶ前に一定期間の試用期間を設け、実際の業務環境でのパフォーマンスや適応度を評価するものです。トライアル期間中に、従業員のスキルや働き方に対するフィードバックを行うことで、必要なサポートや調整を早期に行うことが可能となります。これにより、正式な雇用後の離職率の低下が期待できます。
インターンシップの活用
インターンシップ制度を活用することも有効です。短期間のインターンシップを通じて、精神障害者が企業の業務内容や職場環境を体験することができます。これにより、従業員自身が自分に合った働き方を見つけることができるとともに、企業側も従業員の適性や働き方を評価することができます。インターンシップを経て正式採用につなげることで、より適切なマッチングが実現し、職場での適応がスムーズになります。
カジュアル面談の定期的実施
カジュアル面談を定期的に実施することで、従業員とのコミュニケーションを強化し、継続的なサポートを提供することができます。カジュアルな対話を通じて、従業員の現在の状況やニーズを把握し、必要なサポートや環境調整を行うことができます。これにより、従業員のストレスを軽減し、職場での適応をサポートすることが可能となります。
精神障害者の特性と合理的配慮の具体例
精神障害者の多様な症状
精神障害者は、うつ病、統合失調症、パニック障害、閉所恐怖症、適応障害など、様々な症状を抱えています。これらの症状は一人ひとり異なり、合理的配慮も個別に対応する必要があります。例えば、うつ病の従業員には、作業負担の軽減や柔軟な勤務時間の提供が求められます。一方、統合失調症の従業員には、明確な業務指示や定期的なカウンセリングの提供が必要です。
合理的配慮の具体例
合理的配慮とは、障害者がその能力を最大限に発揮できるようにするための具体的な支援や環境調整を指します。以下に、精神障害者に対する合理的配慮の具体例を紹介します:
- 柔軟な勤務時間の設定:
- 通院や治療のスケジュールに合わせて、出勤時間や退勤時間を調整する。
- 静かな作業スペースの提供:
- 集中力を維持しやすい環境を整えるために、ノイズキャンセリングヘッドフォンの提供や、個別の作業スペースを設ける。
- 明確な業務指示とフィードバック:
- 業務内容を具体的に説明し、定期的なフィードバックを行うことで、従業員の不安を軽減する。
- メンタルヘルスサポートの提供:
- 定期的なカウンセリングの提供や、ストレス管理のためのトレーニングを実施する。
- 緊急時の対応策の整備:
- パニック発作や不安発作が発生した場合の緊急対応マニュアルを作成し、従業員全員に周知徹底する。
精神障害者の雇用に対する企業の取組み
社内研修と教育
企業内での研修や教育を通じて、上司や同僚が精神障害者の特性を理解し、適切な対応方法を習得することが重要です。定期的な研修を実施することで、職場全体の意識向上を図り、障害者に対する理解とサポート体制を強化することができます。
コミュニケーションの促進
精神障害者とのオープンなコミュニケーションを促進することも重要です。定期的なミーティングや1対1の面談を通じて、従業員の状況やニーズを把握し、適切なサポートや環境調整を行うことが求められます。心理的な安全性を確保するために、職場内での信頼関係を築くことが重要です。
専門家の活用
心理カウンセラーやメンタルヘルスの専門家を職場に導入することで、精神障害者の従業員へのサポートを強化することができます。専門家による定期的なカウンセリングセッションや、職場内でのメンタルヘルスワークショップを実施することで、従業員のストレス管理や精神的な健康維持を支援します。
パートナーシップの構築
障害者雇用支援団体や専門機関とのパートナーシップを構築することで、精神障害者の採用・雇用に関するノウハウを獲得し、効果的な支援体制を整えることができます。外部の専門家との連携を図り、最新の支援方法やトレンドを取り入れることが可能となります。
年齢層が若く、優秀な人材も多いので大きな戦力になる
当社のクライアントで精神障害者の採用・雇用で困っている企業様がいました。この会社は障害種別に関係なく、優秀と思える人材を採用する方針を取るところで、過去に何人もの精神障害者を採用した実績がありました。
しかし、雇用している精神障害者と入社後に十分なコミュニケーションが取れなかったり、苦情ばかりで仕事をしない、すぐに退職してしまうなどのトラブルを抱えていました。
そこで、当社のコンサルティングが支援したのは、採用プロセスの見直しです。
カジュアル面談を複数回行い、会社との相性を十分に考慮した上で、大丈夫と判断した候補者のみ選考をしました。候補者にとっては何度もオンライン面接で負担が大きく、途中で事態する方もいましたが、選考前にカジュアル面談を実施したことで優秀な人材の獲得に成功するようになりました。
精神障害者の方は、健常者や時にはそれ以上の高いスキルを持った方も多いので採用をしっかりコントロールすれば良い人材を獲得する可能性は高まります。しかも、年齢層が若いので、障がい者の若年化にも成功することができました。
ただし、採用プロセスを改善しても実際に仕事をしてみないと分からないところが大きいので、万一、相性が悪かった場合に備えて、雇用形態は半年ごとの契約社員にし、従業員のパフォーマンスを定期的にチェックするフォローは入れています。
まとめ
障害者雇用における精神障害者の採用・雇用は、企業にとって依然として難しい課題となっています。しかし、適切なノウハウの獲得や企業全体での理解とサポート体制の構築を行うことで、精神障害者が働きやすい環境を提供し、企業の持続的な成長を支えることが可能です。残業の配慮や柔軟な働き方の導入、継続的なサポートの提供など、多角的なアプローチで精神障害者の採用・雇用を推進することが求められます。
当社の障がい者採用支援サービスでは、採用計画の策定から採用戦略の構築、採用方法の策定、そして入社後のフォローアップまで、総合的に障がい者の働きやすい環境づくりを支援しています。企業が持続可能な人材戦略を構築し、精神障害者を含む多様な障害者の採用・雇用を成功させるために、ぜひ当社のサービスをご活用ください。