精神障害者の定着率を上げるためには|課題と解決策
障がい者の職場定着率に関しては、以前のこちらの記事でも触れたように、企業にとって大きな課題となっています。障がい者職業総合センターの調査によると、身体障害者の定着率が60.8%、知的障害者が68%、発達障害者が71.5%である一方で、精神障害者の定着率は49.3%と最も低い結果が出ています。これは、他の障がいに比べて精神障害者が職場に定着することが特に難しい現実を示しています。
精神障害者は、他の障がい者と比べて一人一人の症状や必要な合理的配慮が異なるため、対応が非常に難しいとされています。同じうつ病であっても、ある人が求める合理的配慮と別の人が必要とするサポートは全く異なる場合が多く、周囲のサポート体制をカスタマイズする必要があります。このため、精神障害者を支援するには、個別のニーズに応じたきめ細かい対応が求められます。
また、精神障害者の採用選考においても、候補者の状況を把握するのが難しいという現実があります。精神障害は、面接などの短い時間では見極めが難しいことが多く、選考時における症状や必要な合理的配慮について十分にヒアリングすることが重要です。特に、精神障害者との面接時にはカジュアル面談を設けたり、面接回数を増やすなど、より深く理解するための工夫が必要かもしれません。
精神障害者の定着率が低い理由
精神障害者の定着率が他の障がい者と比較して低い背景には、いくつかの要因が影響しています。これらの要因は、個別の配慮や職場環境の整備が十分でないことが関係しています。
1. 病状の変動による不安定さ
精神障害者の場合、病状が安定している期間とそうでない期間が交互に現れることが多く、これが職場でのパフォーマンスや出勤率に影響を与えます。うつ病や双極性障害などの場合、症状の悪化時には長期間の休職や欠勤を余儀なくされることもあり、結果的に離職に繋がりやすいのです。
2. 職場でのストレスやプレッシャー
精神障害者が職場で感じるストレスやプレッシャーは、他の障がい者に比べて大きく、これが原因で職場に適応できず、離職するケースが多く見られます。職場での人間関係の問題や業務量の負担が、精神的な不安定さを悪化させることがあります。
3. 理解不足によるサポート体制の不備
企業内での精神障害に対する理解の不足も、定着率が低い一因です。合理的配慮が十分に行われず、適切なサポート体制が整っていない職場では、精神障害者が安心して働ける環境を提供できず、結果として職場定着が難しくなります。周囲の同僚や管理職が精神障害に対する知識や理解を欠いていると、コミュニケーションのズレが生じ、孤立感を感じることが多いです。
精神障害者が職場に定着するためのソリューション
精神障害者の職場定着を実現するためには、企業側が積極的にサポート体制を整え、環境を整備することが重要です。以下に、精神障害者が職場に定着できるための具体的なソリューションを紹介します。
1. 柔軟な働き方の導入
精神障害者の定着を促進するためには、フレックスタイムやリモートワークといった柔軟な働き方を導入することが効果的です。病状が悪化した際でも、自宅での勤務が許可されることで、無理なく業務を続けることが可能となり、長期的な休職や離職を防ぐことができます。
2. 職場内でのメンタルヘルスケアの充実
企業内でのメンタルヘルスケアサポートは、精神障害者の定着に大きく寄与します。専門のカウンセラーを配置したり、メンタルヘルスに関する相談窓口を設けることで、従業員が抱えるストレスや不安を早期に解消することができます。定期的なメンタルヘルスチェックやストレス管理プログラムの実施も効果的です。
3. 職場環境の改善と合理的配慮の提供
精神障害者が安心して働ける環境を整えるためには、合理的配慮が不可欠です。具体的には、作業量の調整や、無理のない業務スケジュールの設定、業務内容の適切な割り振りなどが求められます。また、職場でのストレス要因を軽減するための取り組みを積極的に行うことで、離職率を下げることが可能です。
さらに、カジュアル面談を取り入れるなど、選考プロセスを工夫することで、企業側も候補者の状況をより正確に把握することができます。面接時には症状や必要な配慮について丁寧にヒアリングを行い、候補者にとって適切なサポートを提供できる体制を整えましょう。
4. 教育プログラムの導入と従業員の意識向上
精神障害に対する理解を深めるための教育プログラムの導入も、職場定着率向上のためには重要です。管理職や同僚に対して、精神障害についての正しい知識を提供し、合理的配慮の重要性を周知させることで、職場全体でサポート体制を構築できます。これにより、精神障害者が孤立することなく、チームとして働ける環境を整えることができます。
今後は精神障害者の採用が増加傾向
障がい者別では多くの企業で積極的に採用しているのが身体障害者の方です。
障害によって手足が不自由だったり心臓に持病を抱えたりしている人たちがいますが、仕事のやり方自体は他の一般社員と変わらずに行うことができるために、身体障害者を採用する企業は多いです。
ただ、身体障害者の73%が65歳以上で高齢化が課題となっています。実感としても身体障害者の年齢は高いですし、最近リタイアする人も身体障害者の人でした。少し話が脱線しますが、勤務先では定年まで勤め上げる障がい者の方も多くいます。中には再雇用で定年延長で働いて貰う人もいます。レイオフのイメージが強い外資系投資銀行でも、障がい者として働くのは大きな特権なのかもしれません。
話が脱線してしまいましたが、身体障害者の高齢化が課題となっている今、これからは多くの企業にとって精神障害者を採用の軸に置くことになりそうです。
精神障害者の雇用が義務付けされたのが2018年からなので、まだ多くの企業で採用方法や育成方法でノウハウが蓄積されておらず、試行錯誤しているのが実態だと思います。
でも、精神障害者は個々の悩みを解決することができれば、一般社員と同じか、人によってはそれ以上のパフォーマンスを発揮する人材となりえます。
まとめ
精神障害者の職場定着率を向上させるためには、企業側の理解とサポートが不可欠です。病状の変動やストレス、職場でのサポート不足が原因で離職率が高い現状に対して、柔軟な働き方の導入やメンタルヘルスケアの充実、合理的配慮の提供など、企業側が積極的に取り組むべき課題は多くあります。精神障害者が長期的に活躍できる職場環境を作ることは、企業にとっても大きなメリットとなるでしょう。